錦糸町発!ハロー!イースト東京 この街のだいすきなところ、またひとつ
体験
  • 墨田区大平

どんな家にもお風呂がある時代に、それでも足を運びたくなる場所へ。

黄金湯が描く次世代の銭湯文化

かつて、下町の大衆文化に欠かせない場所であった銭湯。

そこにはさまざまな年代のひとが集い、肩の力の抜けた自然体の交流がありました。

一方で、今はほとんどの家に大なり小なりお風呂がある時代。そんな現状においても、街の人々だけでなく各地から目的地として人がやって来る銭湯が錦糸町にあります。

大改修が完了した当初から話題を集めた「黄金湯(こがねゆ)」では、数年後たった今も、人々にとって開かれた憩いの場でありながら、時代に寄り添ったアップデートが続いていました。

「とがった銭湯をしたかったわけではない」と語るオーナーの新保さんご夫妻に、今の黄金湯になるまでの背景を伺います。

お風呂好きのクリエイターと共に築いた、お風呂好きのための空間設計

まずはひとっ風呂浴びるような気持ちで、中をご案内していただきました。


銭湯らしからぬ外壁の店舗情報

全体をブランディングしたのは、クリエイティブディレクターの高橋理子さん。

実は近所にアトリエを構えている高橋さんと新保さんご夫妻は元々知り合いで、食事の席で「黄金湯の改装をしないといけない」と話題に出したことがすべてのはじまりでした。

そこで高橋さんが全体のブランディング兼クリエイティブデイレクターを引き受けてくれることになり、声をかけたのが、ブルーボトルコーヒーの店舗設計を複数手がけたことでも知られる長坂常さん。

長坂さんによる設計で、外観から入ってすぐの番台まで、従来の銭湯とは似ても似つかないようなビジュアルが続きます。


番台はDJブースやビールサーバーの設置されたカウンター形式
ロゴ入りの今治タオルや手拭い、トレーナーなどオリジナルグッズの販売も

靴を脱いで進み、まずは浴室へ。

綺麗に磨き上げられた浴場に店主の愛情を感じます

銭湯の中でも比較的広いわけではない浴室ですが、「お風呂屋さん」を長く営んできたご夫妻のこだわりが随所に散りばめられています。

シャワーのお湯が通る配管兼フレームに設置されたミニマルな鏡の間からは、湯船の混み具合がチェックできるように、あえてちょうど良い隙間がつくられていたり。

身体を洗いながら、空いているタイミングを見計らって湯船に入ることができる工夫です

さまざまな人にお風呂を楽しんでもらえるようにと、お湯の温度は「あつめ」と「ぬるめ」が用意され、日替わりの薬湯も。

浴室の象徴となる銭湯絵は、漫画家のほしよりこさんによるもの

『今日の猫村さん』などで知られるほしよりこさんによる直筆の銭湯絵は、男湯から女湯にかけて、とある男女の成長物語になっており、ちょうど富士山を超えたところで隣の絵が「見えそうで見えない」のがポイントなのだそう。

敷居の壁の高さは脱衣所からずっと2m25cmに統一され、人の手で触れられる部分は優しいベージュのタイル、その上は、建築家の長坂さんが得意とするコンクリートのスタイリッシュな素材感でまとめられています。

さらに、奥の銭湯絵の下を抜けていくと……?

サウナ好きだという奥様の新保朋子さんがこだわったサウナ。壁に石を貼り付けることにより、蓄熱性を高めています

黄金湯の人気の一因となっている、銭湯では稀に見るほどの整備されたサウナ空間が広がっています。

しっかり汗をかいたら、水深90cmの立派な水風呂で身体の熱を冷ました後に、外気浴で「整う」ことができる場所まで。

外気浴のためにつくられた静かな空間。見上げた先には黄金湯のえんとつが目に入ります

最高のサウナをお客様にも体験してほしいと抜かりなく作られた空間には、遠方からもサウナ好きが足を運びます。

さらに、これだけではありません。

お風呂を出て番台の横につくられた階段をのぼっていくと、完全個室のアカスリルームに、ドミトリータイプの宿泊スペースまで。

ゆったりとした宿泊スペースは、サウナを存分に楽しみたい人や、遠方からの出張に利用する人までさまざま

イベントや展示に活用できるラウンジスペースでは「黄金キッチン」でオリジナルメニューを楽しむこともできます。

2階に上がった先にある黄金キッチン※取材時はコロナ禍の影響を受けて残念ながら休業中

「銭湯の枠を超えた」と表現しても過言ではないこの場所は、一体どんな経緯で生まれたのでしょうか。

日差しの明るい2階のラウンジスペースで、新保さんご夫妻にゆっくりとお話を聞きました。

引き継いだ銭湯を、新しい価値提案の場所に。この街に銭湯を残したかった

今でこそ、次世代の銭湯として各種メディアに取り上げられることの多い黄金湯ですが、実は最初からこの方向性を考えていた訳ではなかったそうです。


「元々はレトロなものが好きで、ここから徒歩5分ほどの距離にある姉妹店の大黒湯のような、歴史ある建物を残していきたい派なんです。だから最初はレトロさを追求したいと思っていたのですが、それだと大黒湯とお客さまの取り合いになってしまう。そんな心配もあったし、続々と銭湯が廃業していく中で若いお客さまにももっと足を運んで欲しいという気持ちもあって。そんなことを話したところ、クリエイティブディレクターの高橋さんが提案してくれたのが、長坂さんによる設計だったんです」

そう話すのは、奥様の朋子さん。

サウナ空間へのこだわりだけでなく、黄金湯の店主としてクリエイターさんたちと話し合いながら大改修を進めたそうです。

そもそも黄金湯は、元々営んでいた方が高齢のために廃業を考えていたところを、近所で同業として大黒湯を営んでいた新保さんご夫妻が引き継いだ場所です。

時代が変わるにつれて起こる人々の銭湯離れと、廃業の危機を目の当たりにしてきたからこそ、これまでとは違った銭湯の重要性も感じていたそう。

「街の人はもちろん、若い人にも『銭湯ってやっぱりいいね』と気づいてもらえるんじゃないかと。斬新なデザインでありながら、お客様にも安心して利用していただけるよう、相談しながら決めていきました」

黄金湯に関わったクリエイターの共通点は、みんなお風呂が好きなこと。だからこそ、「次世代に引き継いでいけるような銭湯にしたい」といった新保さんたちの想いに共感し、今の黄金湯ができあがったのでした。

「今の時代、お風呂はみんなの家にあって当たり前になりましたが、それでも銭湯に来ることで生活の中の豊かさが増したり、気持ちにゆとりが生まれたりするんじゃないかなと思うんです。

もちろん、改修前から通ってくださっていたご高齢のお客さまもいるので、賛否の声は覚悟していました。一番大切にしたいのは街の方々なので、今も通ってきてくださる方も多くて、若い方たちにも関心を持ってもらえるのは嬉しいですね」

ここでひとつ、黄金湯が“イケイケ”なイメージを抱かれやすい大きな要因ともなっている、DJブースの秘密について教えてもらいました。

古いレコードがお年寄りと若者の会話のきっかけに。湯船以外での交流を生み出す音楽

黄金湯を人に伝えるとき、「番台にDJブースがあるらしいよ」だなんて説明があると、どうもとっつきにくい印象を受けてしまう場合もあるかもしれません。

でもこの裏には、ただお洒落だから置いているのとはワケが違う、れっきとしたエピソードがあるんです。


番台の横に鎮座するDJブース。著名なDJによるイベントも開催されてきました

「DJブースは、黄金湯が改装する前にレコード好きなスタッフがいた名残なんです。フロントでレコードをかけていたら、ご高齢の方たちが懐かしがって『うちにもいっぱいあるよ』と持ってきてくれ、すごく増えてしまって(笑)。一方で、若いお客さんが物珍しそうに『何ですかこれ!初めて見ました』と反応すると、フロントのスタッフを介さずにご高齢の方との世代を超えたコミュニケーションが生まれたんです。

お風呂の外でこういった交流が生まれるのってすごく素敵だし、銭湯という場所と相性がいいなって。お風呂にはお子さんからご高齢の方までいらっしゃるので、音楽を通して接点が生まれることにハッとしたんですよね。で、もともとは一台のレコードプレイヤーだったんですが、思い切ってDJブースにしたんです(笑)」

銭湯×DJという組み合わせに面白みを感じて、コロナ前は著名なDJによるイベントも行われたそう。

「そういった文化ってどうしても渋谷などの西側で活発なイメージですが、『東もいいぞ!』と思えるような発信をしていけたらいいですよね」

黄金湯の存在は、お客さまだけでなく同業の銭湯経営者の方々にとっても希望となっています。

「こういうスタイルの銭湯があってもいのかなと思いながらやっていると、他の銭湯の方から『黄金湯さんに人が集まっている様子を見て経営していく覚悟ができました!』とか、銭湯を継ぐことになった人に『お話を聞かせてください』なんて言ってもらえることもあって、それが嬉しいんです。黄金湯の存在が、銭湯の文化を日本に残していくための役に立てているのかなって」

日常使いできる、下町のほっと特別な時間

開店したばかりの朝10時から、すでに黄金湯にはお客さまがちらほら。訪れる人の様子を見ながら、最後にオリジナルのクラフトビールをいただきました。


ビアバーにもなっているカウンターでは、オリジナルクラフトビールや自家製ノンアルコールドリンクを注文できます
ロゴ入りのグラスで「湯上がりに軽く一杯」ができるのも嬉しいですね

ひっきりなしにお風呂へやってくる人々は、ご近所からやってきた常連さんのような方から、日常の疲れを癒しに初来訪したような方まで、ほんとうに男女さまざま。

お風呂愛に満ちた人々の手によって作られたニューな銭湯は、これからの豊かな銭湯文化を考えながら、今も日々築き上げられているんだなと感じました。

ひとりでふらりと行くのもいいし、誰かを誘って湯上がりをゆったりすごすのもよさそう。そんな黄金湯で、たまには心と身体を癒すのはいかがでしょうか?

素敵な「HELLO!」が、今日もあなたに訪れますように。

高橋理子ホームページ https://takahashihiroko.jp
長坂常ホームページ http://schemata.jp/about/
ほしよりこInstagram https://www.instagram.com/hoshiyr/

(取材・執筆:山越 栞)

黄金湯
住所東京都墨田区大平4-14-6金澤マンション1F  Google mapで見る
営業時間平日・日曜・祝日 : 10:00-24:30

土曜日 : 15:00-24:30
定休日第二・第四月曜日

※水曜のみ男女入れ替え日

※タトゥーのある方もご入浴いただけます
料金 大人 480円(1時間30分)

中学生 380円

小学生 180円

幼児 80円
オプション サウナ(平日)女性+300円 / 男性+500円(2時間30分)

サウナ(土日)女性+350円 / 男性+550円(2時間30分)

貸しタオルセット+200円
WEBhttps://koganeyu.com/
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※本記事に掲載している情報は、2022年3月時点の情報です。

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