カウンター越しの異国旅行。コシャリ屋コーピーでエジプトのジャンクフードを
さまざまな人々を許容する錦糸町。
この街の一角には、多国籍な飲食店が並ぶ路地がいくつかあります。
今回訪れたコシャリ屋コーピーさんもそのひとつ。
「本当にこの道で合ってる…?」と、初めての人は少し不安を抱くかもしれない立地は、隠れ家的名店の醍醐味です。
駅前だということを忘れてしまいそうになる細い道の階段をのぼって扉を開くと、そこには不思議な落ち着きと、店員さんとの会話がはずむ空間が広がっていました。
東京に数件しかない「コシャリ」が食べられるお店
そもそも「コシャリ」とは、エジプトで親しまれている国民的ジャンクフードのこと。
貧富の差がある現地エジプトでは、誰もが食べられるようにと日本円で約150円という驚きのリーズナブルさで提供され、老若男女に親しまれているそうです。エジプトには、日本のラーメン屋さんのように至る所にこのコシャリ屋さんがあり、一つとして同じ味のお店はないんだとか。
しかし、日本でコシャリを食べられる場所は、東京でも5軒しかないほど貴重。そのため、お店にはエジプト人のお客様も多いそうです。
そんなことをカウンターに立って説明してくれたのは、スタッフの杉本博典さん。
「まずは聞くより食べてみるのがいちばんです」と、奥の厨房に入っていきます。
作ってもらったのは、人気No. 1の「炙りチーズコシャリ」。
中東で食べられている「シャクシュカ」という卵料理をコシャリ風にアレンジしたものです。
バーナーで炙られたチーズが香ばしい色になっていておいしそう!
注文してから数分で出来上がり、テーブルに出してもらった初対面のコシャリがこちら。現地の屋台と同じように、金属製のお皿で提供されます。
杉本さん曰く、コシャリは食べ方が肝心とのこと。初めての人はお店でまずそのことを伝え、スタッフさんに見守られながら「儀式」を完遂させましょう。
といっても、やることはシンプルです。
まずは別皿で提供してもらったトマトソースを一気に全てコシャリにかけ、あとはひたすらまぜまぜ。そもそも「コシャリ」という言葉自体が「混ぜ合わす」という意味なんです。
「見た目の美しさなんて気にせず、原形が分からなくなるくらいしっかりと混ぜるのがコツです」と杉本さん。
ふむふむ、こんな感じでしょうか……?
「いい感じです!あとは目の前の黄色いダッアー(ガーリックレモン酢)をかけてさらに混ぜ、お米に照りが出てきたら食べてみてください」
ひとくち頂くと、トマトとチーズに酸味のあるダッアーがさっぱりとなじんでとっても美味。
でも、この不思議な食感は何なんだろう……。お米以外にもパスタのようなものが入っていて、複雑な舌触りを作り出しています。
「コシャリにはお米とパスタとヒヨコ豆、レンズ豆が入っているのですが、うちでは3種類のショートパスタを使っています。噛んでいて食感が楽しいだけでなく、それぞれ消化のスピードも違うから血糖値が上がりにくいというメリットもあるんですよ。だから、実はダイエットとの相性もいいみたいですよ。それから現地でも欠かせない揚げ玉ねぎは、当店のオリジナルでカリッとしたものを使っているのがこだわりです。」
ガーリックやチーズもたっぷりなので食べ応えはばっちりなのですが、さまざまなパスタをよく噛んで食べると、今までありそうでなかった食感の体験がやみつきになります。たしかに、お米とパスタを同時に食べることって今までなかったかも……。
コシャリ以外にも楽しめるエジプトの味
またドリンクメニューも豊富で、「実はこんなものもあるんですよ」と、エジプトのハチミツ100%のお酒「ミード」を飲ませてもらいました。
見た目は白ワインのようですが、飲んでみるとハチミツの風味と甘味がふわり。お酒とは思えないような飲みやすさで、これはある意味ちょっと危険なお酒かもしれません。
元々はバーだったお店の内観をそのまま生かしているので、カウンター越しの棚にはお酒がたくさん。夜は店員さんにお願いして、オリジナルのカクテルを作ってもらうこともできるそうです。エジプトのお酒で作ってもらうカクテル、ちょっと気になります。
最後はデザートで締めることに。
これは、エジプトで「オムアリ」と呼ばれている郷土菓子です。
オムは「お母さん」、アリは日本でいう「太郎」のようなオーソドックスな名前のこと。つまり「どこの家庭にもあるお母さんの味」という意味で、エジプトでは定番の家庭料理なんだそう。
「エジプトの断食期間であるラマダンでは、夜の9時から日が昇るまでは食事ができるんです。そのときに各家庭ではお母さんが大きなオムアリを焼いてくれて、それをみんなで食べる。中東でもよく食べられている『パンプティング』の、パンの部分がパイになったものをイメージしてもらえるといいかもしれません」
ナッツがたっぷり乗ったアツアツの表面にはシナモンがかかっていて、スプーンですくうと中身がトロリ。
ただ味だけは、現地の味を再現すると激甘になってしまうので日本人向けに控えめにしているそうです。
エジプトで毎日食べつづけたコシャリを日本でも
ところで、そもそもコシャリのお店を始めたのはなぜなんでしょう?伺ってみると、後からあとから面白いお話が出てきました。
「ウチのオーナーがバックパッカーで世界各国を回っていた頃、エジプトでコシャリと出会ったんです。そこで気に入って、コシャリだけでエジプトを過ごしたくらい食べつくしたそうなんですが、日本に戻ってきて『あれ、そういえば日本にはコシャリ屋がないぞ』って。高級エジプト料理屋さんにはあるけれど、現地と違ってすごく高いので、『これなら自分でがやったら勝ち目あるんじゃないか』と思ったそうです」
そのタイミングで開催された同窓会で再会した仲間たちと始めたのが「コシャリ屋コーピー」。ちなみにコーピーというのは店長さんのあだ名です。オーナーは普段は表に出ることはなく、陰ながらのサポートに徹しているんだとか。
そんな中、杉本さんはというと、なんと元々はお店の常連さんだったそう。
「飲食の仕事は長くて、ギャルソンとしてホテルやフレンチレストランで働いていたり、ソムリエやバーテンダーをしていたこともあります。生まれ育ったのが隣駅の両国で、僕もエジプト料理が好きだったのでここに通うようになったのですが、スタッフを募集していると知って加わったんです。面白そうだし、ここでならお店をもっともっと人気店にしていける確信があったんですよね」
そんな背景からメンバーになり現在はカウンターの向こう側に立ってメニュー開発をしながら、さまざまなお客様との交流もしてきました。
「この立地なので、お客様には自分から『初めてですよね』とか『ここまでの道不安じゃなかったですか?』みたいに聞くようにしていて。お客様とお話しするのが大好きなんです。
なるべくお客さんの顔や好みを覚えるようにしていて、『前回はこのコシャリの話をしてましたけど、今日はどれにしますか?』なんて会話を重ねていくうちに、だんだん恋愛相談までされるようになってきたりしています(笑)」
世間話や仕事の話に混じって、時にはコシャリを食べながら失恋して悲しんでいる常連さんを「大丈夫?」と励ますことまであるというから、そのホスピタリティに驚きです。
「女性のお客様も非常に多いです。一人でも来てくださいますし、最初はちょっと勇気がいるので数人でいらっしゃって、2回目くらいから一人で来られたりとか。お客様が帰るときに『おいしかった』『また来るね』って言ってくださるのはこれ以上ない喜びだし、ここはそれが叶えられるお店だなって思っています」
なんでも揃う街、錦糸町で他にない体験を
最後に、両国育ちで錦糸町には子どもの頃から親しみがあった杉本さんに、この街のことについてもお聞きしました。
「ここ数十年足らずで大きく変わっていますよね。それこそ、錦糸町から一歩も出なくても相当充実した生活が送れる。衣食住すべてが揃うし、ショッピングにしても相当質の高いものまで手に入る。食べ物も、多国籍から和食・洋食、高級なお店もあって、デートに使っても全然問題ないお店が揃っていますし。
エリアによってそれぞれ特化しているので、目的を持って来ても満足できるし、目的を持たずふらっと来ても、いろんなエリアで違う顔が見れる。すごく楽しい街だと思います」
そんな街、錦糸町に根ざしたお店を作ってきた先に、コシャリ屋コーピーとしてやっていきたいことを伺うと、やっぱり楽しそうなお返事がかえってきました。
「ウチのメンバー全員に言えるのは、面白いこと好きなんです。自分たちも面白くて、お客様にも面白がってもらえることをお店作りとしてできればいいなというのが一つあります。
あとはみんなエジプト好きなので、もっとコシャリを広めていきたいですね。今、フランチャイズの募集をしたりもしているので、これから先はお店が増えて、コシャリを知ってくださる方がもっと増えたらいいなと思っています」
エジプト愛とユーモアに溢れたコシャリ屋コーピーさんの店内では、なんとオリジナルソングまで流れていました(!)
これは確かに通っちゃうかもなしれないな……。
なんて改めて思いつつ、たくさんあるメニューの中から次にトライしてみたいコシャリをもう考えていたりして。
ぜひ一度、空間と味、人の全てが一体となった独自の感覚を体験してみてもらいたいです。
素敵な「HELLO!」が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞)
住所 | 東京都墨田区江東橋4-20-13 山田ビル2F Google mapで見る |
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営業時間 | 11:30〜15:00 17:00〜21:00 (土日祝〜22:00、状況により23:00まで) |
定休日 | なし |
TEL | 03-6869-2343 |
WEB | https://kushari-kohpea.com/ |
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※本記事に掲載している情報は、2022年3月時点のものです。
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