時代を経たお気に入りを探しに。THINGS 'N' THANKSで過ごすときめきの時間
東京スカイツリーのふもとに、文房具好きがあちこちから目指してやって来る場所があります。
ヴィンテージ文具のお店「THINGS ’N' THANKS(シングスアンドサンクス)」は、そんなファンの方々の気持ちが分かるくらい、入口からすでにときめきに溢れた佇まいのお店。
さらには「文具バー」なるものも併設してあり、窓辺に座ってオリジナルのカフェメニューも楽しめるんです。
店主の島本彩子さんに、ときめきが詰まったお店の秘密を教えてもらいました。
時を経てやってきたヴィンテージ文具の宝箱
お店の場所を確認して、その姿が見えてきたら自然に「かわいい!」と心の中でつぶやいてしまいました。
入口のガラスには「ヴィンテージ文具と紙、そして文具バー」の文字。暖簾をくぐっていくと、そこにはまるで物語の一場面のような景色が広がっていました。
風合いのあるヴィンテージのラベルやシール、ラッピング用紙や文具が収まった棚は、どこから眺めようか迷ってしまうほど。1940〜1980年代の遊び心ある希少な文具や雑貨をメインに取り揃えているそうです。
街角の小さなお店ですが、中はまるで宝箱のように、素敵なアイテムがぎっしり。丁寧に重ねられた紙もののヴィンテージ品を手に取る際は、「大切に扱わなければ」といった感情が自然と芽生え、優しい気持ちで物に向かうことができます。
よく見ると昔のチケットだったり、広告用に作られた記念品だったりと、今はないようなデザインのなかに、そのアイテムが通り過ぎてきた歴史を感じることができます。
デッドストック品のレターセットや便箋、カードは目移りしてしまうほどバリエーションが多く、特別な人へお祝いのメッセージを贈る際に使いたいな、なんて妄想が膨らんだりも。
「最近は風合いのある紙ものを自分らしくデコレーションして一冊の本のようにする『ジャンクジャーナル』といった分野も人気で、そのために購入しに足を運んでくださる方も多いです。
一方で、文具好きの常連さんたちは品番やメーカーまで指定して『これってないかな?』と声をかけてくれるので、期待に応えられるようにバイヤーさんに相談したりもします」
と、店主の島本さん。買い付けは、蚤の市などで出会った信頼のおけるバイヤーさんや卸業者さんにお願いしているそう。文具好きのお客様はお店での滞在時間がとても長く、その間のコミュニケーションで文具にまつわる情報交換をしたり、欲しいものを聞くようにしているのだとか。
だから仕入れの時の判断軸は、「届けたいと思うお客さんの顔が浮かばない物は買わないこと」。それだけ、お客さまとの関係性を大事にしていることを表しています。
「ものによっては7,000円くらいするホッチキスもあったりしますが、レターセットなどの紙ものはそこまで高くはなりません。ただ、やっぱりそれって捉え方次第だと思っていて。100円ショップで10枚入りの封筒を買える時代に、250円で一枚の紙を買う意義があるかは、その人の価値観によりますよね。好きな人は『安い』と思うけれど、そうじゃない人にとっては高く感じるかもしれません」
古い物に価値を感じられる人が集うお店だからでしょうか。落ち着いた店内の空気感は、確かに何時間もここに滞在してお気に入りを発掘したい気持ちにさせてくれます。
文具にちなんだ、思わず写真に収めたくなるメニュー
お店を始めた頃から島本さんが「いつかやりたい」と思い続けて併設した「文具バー」。窓際にカウンターがあり、レジ横のショーケースには、文具の形をしたクッキーが重なっていました。
ここにお店を構える前は、自由が丘に小さな売り場を持っていたTHINGS ’N' THANKSですが、移転してきたタイミングで「文具バー」の準備もスタートしたそう。
とはいえあくまで文具店なので、「提供するメニューは文具から離れすぎない」と決めているといいます。
「普通のものを出せばメニューも増えるしお客さんも増えるかもしれないけど、それじゃあウチがやる意味がなくなっちゃうので……」
そんなこだわりから誕生した大人気メニューがこちら。
2色のインクシロップを選んで作ってもらえるクリームソーダは、ついつい写真を撮りたくなるキュートさ。
SNSを見て気になり、スカイツリー散策の途中で立ち寄ってくれる若いお客さんが多いのもうなずけます。
他にも、トーストに三角定規の焼き目がついた「三角ウィッチ」なども人気。文具屋さんで食べる文具フードに、思わずニコニコしてしまいました。
さらになんと、商品の仕入れや文具バーで出すメニューの開発だけでなく、お店のサインや内観の一部DIYも、島本さんご自身で手がけているそうです。
統一された世界観はそこからきているのか!と納得しつつも、こんな素敵な空間をおひとりで築き上げるまでの経緯が気になりました。
一番に思い浮かんだ「好き」をお店に
そもそもどうやってTHINGS ’N' THANKSは生まれたのでしょう?伺ってみると、「話すと長くなるんですけど」と、意外なキャリアのお話からはじまりました。
「ずっとサラリーマンをしていたんですが、辞めて自分で何かやりたいなと思って。何ならずっと好きで続けていけるんだろうと考えたら、ヴィンテージ品の販売だったんです」
それまで、アパレル系の物流企業で中国に駐在しながら世界中を回ってきた島本さん。日本に帰ってきたときに家財道具を揃え直す際、「どうせならこだわりたい」と思ってあれこれ見ていくうちに、古いものが好きなんだと気がついたそうです。
「2018年にネット販売をスタートしたときは、文具に限らずもっと広い範囲で、工具類なども販売していました。翌年に東京都の助成を受けて、ここに移転する前の自由が丘で一年間お店ができることになったので、そのときにもうちょっと絞ったほうがいいんじゃないかと思い、一番興味があった文具専門店にしたんです」
そこから一年が経ち、あちこち探し回った結果たどり着いたのが、現在THINGS ’N 'THANKSがあるこの場所でした。
「お店にできる物件を探していた2019年頃は、東京オリンピックに向かって飲食店やホテルが軒並み出店していて、全然いい物件が見つからなかったんです。どうしようかと思っていたときに、急にここの物件がインターネットで出てきて。でも、立地もすごくいいし応募が殺到してしまったから、大家さんが入居して欲しい人を審査で決めることになり、本気の企画書を出して選んでもらったんです」
とはいえ、もともとは高円寺や吉祥寺、阿佐ヶ谷などを中心に物件探しをしていたので、墨田区は選択肢になかったそう。
そんな場所にオープンしてから2年が過ぎようとしている中で、この街について感じていることは何かあるのでしょうか?
ささやかな日常のやりとりにもあたたかさを感じて
「この辺りは、人と人との距離が近いなとすごく思います。今までの場所では、お店に行って店員さんとおしゃべりすることはそんなになかったのですが、ここは全然違いますね。
あと、お店ができて間もないときに、通学中の小学生が『こんにちは』って挨拶してくれたんですよ。こちらも『こんにちは』とお返ししたら、次の日から通りがかるたびに手を振ってくれるようになって、今も毎日続いているんです。かわいくないですか?」
大通りに面した2面ガラス張りのお店だからこそ、人情深い下町の人々と思わぬコミュニケーションが生まれるきっかけとなっているのかもしれません。
島本さんにお話を伺っている間も、道を尋ねに立ち寄ったおじいさんなど、地元の方の来客がちらほら。
「でも、足を運んでくれるお客さんはやっぱり地元の方よりも、外から目指して来てくれる方の方が多いです。
商店街のお店同士のつながりも昔よりは希薄になっていると聞きますし、これからは今よりもっと交流の盛んな関係性を作っていきたいですね」
ひょんなことからこの街にやってきたTHINGS ’N' THANKSと島本さん。
外から足を運んでくれる人、周りにいる人、両方との関係性を少しずつ育みながら、この空間を大事に作っているのだなぁと感じました。
「物事を大事にすることは、その先にある人の想いを大事にすること。またそれが日々を丁寧に生きることに繋がっていくのではないか」そんな考えが、THINGS ’N' THANKSというお店の名前には込められているそうです。
お天気の気持ち良い日にお散歩がてらふらりと立ち寄って、ぜひ時間の流れに身をあずけてみてください。
素敵な「Hello!」が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞)
住所 | 東京都墨田区業平1-21-10 コーポ臼井101号室 Google mapで見る |
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営業時間 | 12:00〜20:00 |
定休日 | 月曜日、火曜日 |
WEB | https://www.things-and-thanks.com/ |
SNS | Twitter , Instagram , facebook |
※本記事に掲載している情報は、2022年3月時点のものです。
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