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  • 墨田区向島

隅田川のほとりで300年変わらない味。長命寺桜もち山本やさんへ

両岸をなぞるように植えられた隅田川の桜は、長きにわたり人々の心を癒してきました。

特に花が満開を迎える春は、多くの花見客が訪れ、江戸の風流を感じる景色となっています。

そんな隅田川のほとりにある長命寺の門前で、江戸時代から桜もちのみを製造・販売しているのが「長命寺桜もち山本や」さんです。

関東風桜もち発祥のお店として、今も愛される桜もちのこだわりを聞いてきました。

桜の香りを生地にうつして、風流なひとくちを

そもそも、桜もちには「関東風」と、蒸したもち米を使った「関西風」があります。

関東風を意味する「長命寺」は、もちろんここが発祥である証拠。

創業者の山本新六さんが享保2年(1717年)隅田川の桜の葉を塩漬けにした「桜もち」を考案し、向島の名跡・長命寺の門前で売りはじめたのがルーツです。

長命寺桜もち:一個220円(税込)

「もち」といっても、生地は小麦粉を薄くのばして焼いたものが長命寺桜もちの特徴。熟練の職人さんによって銅板で一枚一枚手焼きされています。

桜もちを包んでいる塩漬けの葉は、創業時は隅田川沿いの桜が使われていましたが、現在はより香り高い西伊豆松崎産のオオシマザクラに。桜の葉は、香り付け以外にも乾燥を防ぐ役割を担っているんだとか。

桜もちは本来香りを楽しむお菓子。葉ごと食べる人も外して食べる人もいるそうですが、お店としては外して食べることをおすすめしているそうです。

お店推奨の食べ方でぱくり

桜の葉の香りがほんのりと移った薄皮の生地と、北海道産の小豆を水分がなくなるまで固く練り上げられたあんこのバランスが絶妙です。

「いちばん美味しい状態のものを食べてもらえるように」と、注文を受けてからお客様が引き取りに来る時間を逆算して作るようにしているとのこと。

桜の葉につつまれた生地はしっとりもちもちで食べ慣れたお餅とはまたひと味ちがった、繊細な口当たりがたまりません。

300年を経てもなお、愛される伝統の味

今回お店を訪ねたのは朝の比較的早い時間だったのですが、ひっきりなしにお客様が暖簾をくぐってきていました。

山本やさんの桜もちは添加物をいっさい使っていないので、賞味期限は一日。時間が経つにつれて生地が硬くなってしまうので、なるべく早めのうちに食べるのが、美味しくいただくためのポイントです。

「一般的な和菓子屋さんでは2月から4月頃に桜もちが店頭に並ぶかと思いますが、うちでは桜もち専門店として一年中桜もちをご用意させていただいています。

特に桜の季節は多くのお客様がいらっしゃいますので、数日前にお引き取りの時間と個数をご予約いただくのが確実です。一個からでもお取り置きできますので、お買い求めの際はお電話でご予約ください」

と、お話ししてくださったのは、女将の山本祐子さん。嫁いできてから約40年、接客・製造の両方を切り盛りしているそうです。次々とやってくるお客様を優しくご案内されていました。

春以外にも、お正月は「隅田川七福神巡り」が盛んになるため、その一つである長命寺を訪れて、休憩がてらお店に立ち寄るお客様で賑わうそうです。

桜もちのみを一年中さまざまな個数で販売。並ばずにお買い上げしたい場合は事前予約がベターです

隅田川の桜が盛りを迎える頃に多くの人が集い賑わいを見せるのは、江戸時代から同じ。桜もちが誕生した300年前は、そんな人々に大いに喜ばれたことでしょう。

その証拠に、江戸時代の錦絵にも桜もちが登場している隅田川近辺の春の様子が描かれています。

店内には桜もちの歴史と由緒を感じられる展示物も

「やはりみなさん、桜の季節になるとどなたかに持って行って食べていただきたいと思ってくださる方が多くて。贈答用でお買い上げいただく場合が多いですね」

女将さんにお話を伺っている最中も、カウンターで大きな紙包を受け取って帰っていくお客様の姿を何度も目にすることができました。

春を喜ぶ、隅田川の風物詩を求めて

「私どものお店は浅草駅やスカイツリーのある押上駅から歩いて15〜20分くらいなので、車でいらっしゃるお客様も多いです。

近くに住んでいても桜もちをここで売っていることは実はあまりご存じなかったりもしますね。先日も『こんなに近くにお店があったんですね』とおっしゃったお客様がいました」

たしかに、隅田川沿いといっても道路を少し挟んだところにひっそりとお店が佇んでいるので、この街に越してきた人はなかなか見つけにくいかもしれません。

でも、賞味期限が一日しかない山本やさんの桜もちは他の場所で販売することが難しく、本店以外でお目にかかれる機会はほとんどありません。

発祥の味を知らないまま過ごすのはもったいないので、ぜひ一度、足を運んでみてもらいたいです。

桜もちの入った紙袋を持って、隅田川沿いをお散歩するのも◎

「ここ3年は隅田川の桜祭りも感染予防のため中止が続いていて残念ですが、桜は咲いていますのでね」

と、女将さん。どんな世の中でも変わらず巡ってくる春を喜ぶきっかけに、桜もちを求めて隅田川散歩はいかがでしょうか。

素敵な「Hello!」が、今日もあなたに訪れますように。

(取材・執筆:山越栞)

長命寺桜もち
住所東京都墨田区向島5-1-14  Google mapで見る
営業時間8:30〜18:00
定休日月曜日
TEL03-3622-3266
WEBhttps://sakura-mochi.com/
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※本記事に掲載している情報は、2022年4月時点のものです。

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