錦糸町発!ハロー!イースト東京 この街のだいすきなところ、またひとつ
買う
  • 墨田区両国

なにかあったら國技堂へ。

両国名物「あんこあられ」と「土俵サブレ」だけじゃない街の拠り所

古き良き江戸の文化を感じることができる街、両国。駅前の大通りをまっすぐ進んだ先に鎮座する回向院の門前に、両国國技堂があります。

両国國技堂は、「あんこあられ」や「土俵サブレ」など、お相撲さんにちなんだ両国らしいお菓子で人気を集めているお店。

お話を伺ってみると、変化する時代の中でしなやかに形を変え、街と人と歩んできた歴史を垣間見ることができました。

三代目女将の岩佐殊巳さんに出迎えてもらうと、そこには広い視野とやさしい眼差しを感じられる時間がありました。


先代の遺言で引き継いだマルチな三代目女将の務め

「私は、次男の嫁なんです。だから先代の遺言状が出てきたときにびっくり。まさか自分がこの店を引き継ぐように言われるだなんて。でも、そう指名してもらったからには、やっていかないといけないでしょう?実は、主人も私も色々な仕事を持っている中で、このお店を守っているんです」


女将の岩佐さん。講師や理事など、いくつもの顔を持っているそう

生涯学習教室の主宰や、幼児心理学などの専門学校講師、幼稚園の顧問にフィリピンに開校した日本語学校の先生などなど、官民でさまざまなお仕事をしている岩佐さん。両国國技堂の女将業もそのひとつです。

「他の仕事ではスーツや和服のことが多いので、たまたま生徒がここを通りかかって私の姿を見つけると、『先生エプロンしてる!』と驚かれてしまうこともあるんですよ」

先生の顔と、三代目女将の顔。使い分けてどこでも親しまれているのは、岩佐さんの才能とお人柄の賜物なんだろうなと感じます。

「先代の女将である母の介護をしながら、この街で暮らすのに大事なことを色々と教えてもらいました。ご近所付き合いのこと、盆暮れのしきたりなどなど。東京は7月にお盆があるので、その時期には回向院さんでお施餓鬼をして、仏様をお呼びして。そういう冠婚葬祭のマナーってインターネットや本にも書いてあるけれど、今の時代に正しく引き継がれていないことも多いなって、生徒たちと接していても思うんです」

そんな想いから、講師業の方でもお店にやってくるお客さんに対しても、日本のしきたりを伝えることを大事にしているそうです。

時代ごとに変化してきた商いのかたち

両国國技堂の創業は大正12年。実際はさらに前の明治時代からお店はあったそうですが、戦災によって記録が焼失したりして、明確な年代は分かっていません。

とはいえ、両国のこの地に長くお店を構え、そのときどきの時代の需要を読んで変化してきたことは事実です。


現在の店内。岩佐さんが見せてくださった古い写真と比べると、かつての名残を感じました

「はじめの頃は『鈴清』という名前の高級フルーツ店だったんです。当時は貴重だったフルーツを色々取り揃えていて、有名フルーツパーラーで働く新人さんが修行に来たりもしていたそうですよ」


創業時の名前を残したくて、岩佐さんの代で作った「鈴清」のフルーツゼリー

そんな中で、両国國技堂として先代が生み出したのが「あんこあられ」でした。

丸々と太ってお腹が出た体型のお相撲さんを「あんこ型力士」と言いますが、これにちなんであんこをあられにのせたお菓子を発売。すると、両国のお土産として知られるようになりました。


その後さらに、三代目の岩佐さんご夫妻が「土俵サブレ」を開発します。

あられと同じ米粉で作ったサクサクのサブレ生地にはマカダミアナッツが練り込まれ、相撲で勝利を意味する「白星」をイメージしたホワイトチョコをサンド。

これが瞬く間に売れ、現在ではあんこあられを凌ぐ両国の代表的なお菓子になりました。現在は、大相撲の興行でも手土産として使われているほどの人気ぶりです。

土俵サブレのモチーフとなっている可愛らしいお相撲さんのイラストは、なんと先代が描いたものだそう

お店の二階にある専用の工房では、中東の大企業や欧州の大使館で働いてきた80代の大ベテランシェフが、連日大忙しでサブレを焼き上げています。

「2階からいい匂いがするでしょう?実は今朝も早くに家を訪ねてきたお得意様が『どうしても必要だから』と言って抹茶味の土俵サブレを買い占めていったばかりなんです」

そう言って岩佐さんが示した先には、空っぽになった棚。ここに置いてあった土俵サブレは、きっと誰かを笑顔にする手土産になったんだろうなと想像しました。

何かあったら國技堂へ。街の拠り所となる懐の深さ

あらためて店内を見回すと、お菓子以外にも、さまざまな商品が並んでいます。

両国にちなんだお相撲さんのアイテムがセレクトされた棚。ここでしか買えない、びんつけ油の香りのボディーソープも

子ども向けに用意された伝承玩具。おじいちゃんおばあちゃんが孫へのプレゼントとして買うことも多いそう

お菓子以外の商品も並べている理由はというと…?

「この辺にはね、交番がないんです。だから近所の人たちは観光客に何か尋ねられると『國技堂に行けばなんとかしてくれる』と教えるみたい(笑)。お母さんたちもお子さんに『國技堂の前で待っていて』なんて目印にしているようで、お店の前に子どもが立っていることもよくあるんです。そうすると自然とこちらは『どうしたの?』と声をかけるでしょ。それで、お店の椅子に座ってジュースを飲んで待っている子も少なくないんです。そんな背景もあって、お菓子以外にもいろんなものを置いています」

お店の横側に設置されている自動販売機。何が出てくるか分からない「お楽しみドリンク」も人気

「本当は、あんこあられや土俵サブレだけ作って箱売りをしている方が利益は出るんです。でも、私たちがしたいのはそういうことじゃないから、いろいろ楽しく試しています。外に置いている自販機では私が作ったアクセサリーの詰め合わせを1000円で販売していて、子供のお使いや路上生活者の人たちにも手が届くように金額も安く設定しているんです」

単なるお菓子屋さんに留まることのない、岩佐さんの深さを感じました。

5年後のことは分からない。だから楽しく営んでいく

長い歴史を持つお店にこそ、いつも伺っている質問があります。

“今後、どんなお店でありたいと思いますか?”

この問いかけに、岩佐さんから返ってきたのは予想外の言葉でした。

「客観的に見て、どうあるべきだと思いますか?展望はなかなか見えないですよね。講師をするときも話すんですが、人間の区切りって5年なんです。同じ人間でも、5年前と今はやっていることも考え方も全然違っていたりするでしょ。だから、単に『何がなんでもここを守っていこう』というのではなく、その時代によっていちばん良い形を選んでいきたいねって、主人とも話しているんです」

変化に対応できるのは、さまざまな選択肢を考えられるしなやかさがあるから。両国を代表するこのお店が、これからどんな道を辿るのかが楽しみになりました。

そうそう、あんこあられと土俵サブレはいわずもがなの人気商品なので、買いに行く際は売り切れにご注意くださいね。

素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。

(取材・執筆:山越栞)

両国 國技堂
住所墨田区両国2-17-3  Google mapで見る
営業時間10:00〜19:00
定休日年中無休
TEL03-3631-3856

※本記事に掲載している情報は、2022年8月時点のものです。

6