力士ゆかりのちゃんこ鍋の名店・巴潟の抜かりないこだわりに舌鼓を
両国名物の一つといえば、お相撲さんが部屋で食べて英気を養う「ちゃんこ鍋」。
親しい人たちと食卓を囲めるようになってきた今こそ、あたたかな鍋を囲んで幸せなひとときを過ごしたいものです。
JR両国駅の周辺にはさまざまなちゃんこ鍋屋さんが軒を連ねていますが、今回はその中でも名店と名高い「ちゃんこ 巴潟」を訪ねました。
創業以来のこだわりを守り、妥協のない味と、若い世代も足を運ぶ親しみやすさを兼ね備えたお店作りをする、女将の工藤みよ子さんにお話を伺います。
力士の修行に欠かせない「ちゃんこ」の食文化
そもそも「ちゃんこ」とは、相撲部屋で作られる力士の食事の総称です。
その中でも鍋料理をさして「ちゃんこ」と呼ぶようになったのは、それほどに、多くの相撲部屋で定番になったからでした。
体の大きいお相撲さんたちが一度にみんなで食べることができ、具材を入れて煮込むだけなので調理も簡単で、栄養バランスのとれた食事を作ることができ、なにより「同じ釜の飯」を共にすることで連帯感も生まれる。
そんな理由から、今でも相撲部屋では「ちゃんこ番」と呼ばれる食事当番があり、これも下位力士の修行のひとつになっているそうです。
巴潟のちゃんこは、元々こうして相撲部屋でつくられていたものでした。
お店の名前は、昭和10年代に力士として活躍した「巴潟」からとったもの。引退後も高島部屋の親方として何人もの名力士を育て、相撲協会を定年退職することになった際、次男の工藤健次さんから「ちゃんこ屋をはじめよう」と背中を押されて開業したのが、「ちゃんこ 巴潟」でした。
「巴潟自身は商売のことなど全く考えていなかったそうなのですが、息子である私の主人の熱意に押される形で、ちゃんこ屋をはじめたそうです。主人は13年前に他界してしまったのですが、本当にお料理が好きで、味への妥協をとにかく許さない人だったので、私の代になった今も、そのこだわりは頑なに守り続けています」
美味しさへのこだわりを詳しく教えてもらうと、多くの食通たちを唸らせてきたことにも納得でした。
力士の修行に欠かせない「ちゃんこ」の食文化
今回は、一番人気の「国見山ちゃんこ」を作っていただきました!塩味がベースの透き通ったスープに、肉や野菜、そしてイワシのつみれを女将さん自ら鍋に入れて調理してくださいました。
「鍋には煮ごろ食べごろがあるんです。一番美味しいタイミングでお客様に召し上がっていただきたいので、スタッフがお客様にお作りしてお出ししています。みんな一緒に同じ鍋に注目しながら冗談を言い合ったりするのも良いものですよ」
と、女将さん。忙しい日々の中でも、お客さんと話すのが何よりの楽しみだそうです。
「私が大阪の出身なので、『料理は新鮮、女将は天然』なんて言いながら、お客様に美味しく楽しく過ごしていただくのが私の生きがいなんです」
そんなお話をしてもらっている間に、ちゃんこ鍋が食べ頃になってきました。
ちゃんこのスープは「ソップ煮」という、鶏ガラベースのものが王道だそう。ソップとは鶏のことで、相撲業界では二本足で歩く鶏は「手をつかない」ことから勝利への願掛けによく食べられているそうです。
巴潟の鶏ガラスープは、毎朝板長が半日以上かけてつくる渾身の作です。
毎朝届けられる40kg以上の新鮮な国産の鶏ガラを丁寧に処理し、黄金色に透き通ったスープになるまで何度も何度もアク取りをしながら煮詰めていきます。
材料の具合や天候によって味付けのさじ加減も絶妙に変わるため、40年以上もここで腕を奮い続けている板長が、塩の量を調整しながら最高の味に仕上げているのです。
また、新鮮なイワシを練ってつくるつみれも、巴潟のちゃんこが美味しい秘訣です。
「先代のこだわりで、どんなに手に入りにくくても必ず生のイワシを使ってつみれを作るようにしています。『鮮度の良いものが手に入らず冷凍のイワシを使うくらいなら、つみれは出すな』とまで言っていたくらい。手を抜いたら抜いた分、そういう味にしかならないし、一度来てくださったお客様に二度、三度と足を運んでもらうには、妥協をしないことが何より大切なんです」
そんなお話を伺ったあとに、実際にちゃんこ鍋をいただきます。
鶏ガラベースのスープとイワシの風味、新鮮な具材などさまざまな旨味が溶け合ったスープは、ひとくち飲んだだけで幸せに。栄養が体の中に染み渡っていくような感覚になりました。
また、ちゃんこ鍋というと夜に複数人で囲んで食べるイメージがありますが、巴潟では一人で気軽に楽しめるランチも人気だそう。
美味しいものを少しずつ楽しめるようにと、小皿料理も盛りだくさんの定食メニューです。
感染症対策のため食事のシェアに抵抗がある人や、一人でもちゃんこを楽しみたい人も「ちゃん個鍋」として楽しめるメニューが揃っています。伝統の美味しさを守りながら、時代のニーズを叶えることも忘れません。
ちゃんこを通じて和の食文化を伝えていきたい
相撲の街、両国で創業から46年に渡り、一般の人々にも美味しいちゃんこを提供してきた「ちゃんこ 巴潟」。もちろん角界の会合や、相撲部屋の親方たちにも長年愛されてきた由緒あるお店ですが、近年はインターネットの検索などによって若い世代のお客様も増えているそうです。
「若い方が来てくださるのも大歓迎です!これまでちゃんこに馴染みのなかった人が、ひとくち食べて『うまっ!』と感動してくださると、こちらも『やった!』とガッツポーズしたくなります。
私たちが掲げているのは、“ちゃんこを通じて和の食文化を伝えていくこと”。これからも一期一会のご縁を大切にしながら、今日より明日と成長していきたいです」
鍋を囲んで、なんでもないような会話を楽しみながら、美味しいちゃんこを共有しあうもよし、もちろんまずは一人でじっくり味わうもよし。
少しの間忘れかけていたかもしれない幸せなひとときを、ぜひちゃんこ巴潟で体感してください。
素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞)
住所 | 東京都墨田区両国2-17-6 Google mapで見る |
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営業時間 | 平日/午前11:30~午後3:00(L.O 午後2:00)、午後5:00~午後10:00(L.O 午後9:00) 土日祭/午前11:30~午後3:00(L.O 午後2:00)、午後4:30~午後10:00(L.O 午後9:00) |
定休日 | 月曜定休日 ※新年は1月5日(木)17:00より通常営業 |
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※本記事に掲載している情報は、2022年12月時点のものです。
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