生産者にも消費者にも誠実な取り組みで業界を変える。ホリゾンの「顔の見えるカシミヤ」
冬場の衣料として、日本でもずっと愛されてきた「カシミヤ」。
しかし、私たち消費者のもとに届くまでには、いくつかの問題を抱えていることをご存知でしょうか?
カシミヤを育てる畜産農家さんたちが買い叩かれていたり、ブローカーの不透明な取引による価格の高騰や偽カシミヤ問題など、ひとくくりに「カシミヤ」と書かれていても、その背景には闇が潜んでいる場合も。
だからこそ消費者となる私たちは、社会に対して好循環となる働きかけをしているクリーンな企業からカシミヤを購入したいものです。
今回ご紹介するホリゾン株式会社は、墨田区の片隅で、実はカシミヤ業界のサスティナビリティやフェアトレードに世界規模で尽力している企業なのです。
内モンゴル自治区で政府の認可を受けた自社農場(研究所)に、現地の畜産農家さんたちとの提携、自社工場での一環したものづくりなど、「顔の見えるカシミヤ」にこだわり続けています。
より詳しく教えてもらうために、本社へ伺いました。
軽くてあたたかいカシミヤの背景にある切実な課題
東京スカイツリーのある押上駅からひとつ先にある曳舟(ひきふね)駅を降り、マンションや小さな商店などの立ち並ぶ道を進んで少し路地に入った白壁の建物。「こんなところにそんな会社が?!」と思わず疑ってしまうような静かな場所に、カシミヤ業界の未来を担うホリゾン株式会社があります。
今回はこちらのお2人が親切にお話しをしてくださいました。
ホリゾンの代名詞は、お二人の首元に巻かれているストール。オリジナルブランドnorthpeace farmのものです。
元々はB to Bで他社から依頼を受けてカシミヤやウールの製品を作ってきた中で、生産から販売までを自社で一貫するために、このオリジナルブランドが作られました。
杉山さん:魅力は何といっても「顔の見えるカシミヤ」だということ。カシミヤを育てている畜産農家さんとの提携や工場でのものづくりまで、全て内モンゴル自治区の自社管轄内で行っています。多くの場合、カシミヤは分業によって見えない工賃が重なり、最終的には輸入することになるので、価格が高くなりがちです。私たちは自社で全てできているからこそ、お客様により質の良い製品を正当な価格でお届けできるんです。
たしかに一般的なカシミヤは価格が高いイメージがありますが、ホリゾンさんのショールームに置いてあるカシミヤ製品の値札を見てみると「カシミヤ100%なのにこんな価格でいいの??」と驚いてしまいました。
脇田さん:ストールができるまでには、織物用の糸を作るなど約60工程ほどあるんです。現地の工場で、職人さんが長年の感覚でちょっとずつ調整したり見極めていたりして、裁断なんて一つひとつハサミで切っているんですよ。職人さんが真っ直ぐに切っていく様子は見ていて感動するものがありますよ。
畜産農家さんの暮らしから制作工程のことまで詳しくお話ししてくださったお2人。でも、こんな風に語ることができるカシミヤ業界の企業は、そう多くはないのかもしれません。なぜなら、カシミヤが私たちの手元に届くまでには、さまざまな課題があるからです。
特に大切なのは「トレーサビリティ」の問題です。先ほどお話に出たカシミヤの価格にも関わってきます。
カシミヤは、カシミヤヤギを飼い育てている畜産農家さんからブローカーが毛を買い、加工業者に売ることで製品化されるのが主流でした。しかしこの段階で、ブローカーはどこでどんな風に育ったカシミヤなのかをきちんと教えてくれるわけではありません。畜産農家さんからは安い価格で仕入れ、高く売り飛ばしてしまうことも。また、実はカシミヤではない毛が含まれており、日本でも「カシミヤ偽装問題」にまで発展したこともありました。
そうなると、多くの企業はカシミヤを使った製品づくりを躊躇するようになってしまいます。しかしこれでは、カシミヤ産業に携わる現地の畜産農家さんや職人さんたちの経済問題にもつながってしまいます。
だからこそ、中身が見える「トレーサビリティ」が取れたカシミヤを製品にすることで、ホリゾンでは持続可能なカシミヤ産業の未来を担っているのです。
そして、その想いと取り組みは、私たちの想像をはるかに超えるものでした。
内モンゴル自治区での取り組みが叶えたカシミヤ業界のサスティナビリティ
ホリゾンでは2005年にカシミヤの名産地である内モンゴル自治区に自社工場を設立。現地で暮らしてきた1,140の畜産農家家族と約40万頭のカシミヤヤギたちと「共に支え合うパートナー」とし、フェアトレード(公正な取引)によるものづくりをしてきました。
2018年には、内モンゴル自治区の烏拉特中旗農・畜産業局のサポートの元、自社牧場を開牧。 約3000万㎡の牧地に約2000 頭のカシミヤヤギを飼育しながら、カシミヤに関わる持続可能な環境を目指し、研究プロジェクトも開始しました。
その内訳はというと…?
● カシミヤヤギの飼料となる草原の回復機能の持続・向上
● 草原の面積と飼育可能なカシミヤヤギの頭数の関係の分析
● 飼育に伴う労働力と収支の算出
● 遊牧生活の中で煩雑になっているカシミヤヤギの品種を分け育成
● 牧草や土壌の分析・気候の変化や関与
などなど。現地の大学などとも連携しながら、サスティナブルなカシミヤの在り方と本気で向き合っています。
また、地域のカシミヤヤギを育てる畜産農家さんの生活経済を守りながら、リサイクルをすることでカシミヤの健全な循環を目指す取り組みも。
ホリゾンの取り組みを知れば知るほど、いかに真剣にサスティナビリティを追求しているかが分かります。
直接手にとって感じて欲しい「顔の見えるカシミヤ」の価値
そんな素敵な取り組みを続けてきたホリゾンの商品は、どのようにして求めることができるのでしょうか?
杉山さん:オリジナルのブランドを作ったのが3、4年前。それまでは企業のお客様からのご要望でOEMとして制作することがほとんどだったのですが、現在はインターネット販売のほかに、お声がかかってポップアップに出させていただいたり、イベントの物販をさせていただいたりもしています。さらに、2022年9月から2023年3月までは、この本社で地域のお客様向けに直販のイベントをやっていまして。こちらでも購入することができます。
カシミヤのあたたかさが嬉しい季節に、地域にこんな素敵な穴場ショップがあるなんて……!ご近所の人たちはなんと幸せなのでしょう。
脇田さん:墨田区の外からもわざわざ来ていただいたり、近所の方が顔馴染みになるくらいに何度も来てくださったり、そんなお客様がお友達を誘ってきてくださることも多いです。うちの商品をきっかけに「あの人にも教えてあげたいな、プレゼントしたいな」と大切な人を思い浮かべるキッカケになれているのかなと思うと嬉しいですね。
おすすめは、カシミヤそのものの風合いを楽しめる無染色のアイテム。中でも希少なホワイトカシミヤは、内モンゴル自治区での生産が世界で最も多いそうです。
最後にお2人に、この街の好きなところとホリゾンのカシミヤをどんな風に使って欲しいかを伺ってみました。
脇田さん:足を運んで来てくださったお客様とお話しさせていただく機会も増えたのですが、あらためてこの街の人たちはみなさんすごく人懐っこいなと思います。困っているとすぐ話しかけてくださるし、私たちの会社のことも気さくに受け入れてくださって。東京って人との距離があるイメージかもしれないけれど、墨田区はそれを感じさせないあたたかさがありますよね。
杉山さん:ぜひお気に入りを探しにいらしていただきたいです。カシミヤはだんだん風合いも変わってきたりと体に馴染んで自分好みになっていくと思うので、育てていただくように大切に使っていただきたいです。
下町の片隅に、カシミヤ業界の幸せな循環を本気で考え活動している企業がある。その事実に、街への誇りがまた一つ増えたように感じました。
販売会では、内モンゴル自治区での取り組みや素材となるカシミヤの製作工程などについてもスタッフさんから教えてもらうことができます。
ぜひホリゾンの本物のカシミヤに触れて、消費者としてできることを考える一歩にしてみてください。
素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞)
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※本記事に掲載している情報は、2022年12月時点のものです。
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