「お米」が「ごはん」になるまで、おいしさに責任を持つ。隅田屋商店が届けたいこれからの白米文化
私たちの食卓に並ぶ、白いごはん。あなたはどんな食感で、どんな味で、どんな炊き方のものが好きですか? そもそも、白いごはんにそれほど違いはないと思っている人もいるかもしれません。
あって当たり前の存在だからこそ、特にこだわりがなくても食べていられるごはんですが、これをコーヒーやワインのように「嗜好品」として楽しむ文化を普及しようと活動している方がいます。
それが、今回訪ねた隅田屋商店の代表、片山真一さん。
100年以上続いてきた家業のお米屋さんを引き継ぎ、新たな販路を築いただけでなく、5つ星お米マイスターとして炊飯ワークショップまで行っています。
精米された状態の「お米」が、炊き上がって「ごはん」になるまで、美味しさを追求し一般の人々に伝えていく。そんなプロフェッショナルのお話を聞いて、今後のお米に対する捉え方が変わりそうです。
用途に合ったプロ仕様のお米を精米・ブレンドしてきた専門店
隅田屋商店は、1954年に業務用のお米を精米・販売するお店として創業しました。現在はスーパーなどで手軽にお米が買える時代。消費者の私たちにとってはお米屋さんでお米を買うという選択肢はあまりないかもしれませんが、いわゆる「プロ仕様」のお米とはどんなものなのでしょうか?
「大きな違いは、大きく分けると“精米”と "ブレンド"です。お米をごはんにしたときに感じる味って、100人いれば100人分の感じ方があるんです。だから私どもはまず用途別で、お寿司にするには粘りのないお米、あったかいご飯で食べるなら香りが強いものなど、特徴のある玄米を日本全国から集めて精米し、ご要望に合わせたブレンドをしてきました」
隅田屋商店がこだわっている「古式精米製法」は、一般的な精米の7倍も時間がかかるそう。お米の外側についている果皮を一度に削り取るのではなく、ゆっくりと摩擦をかけて少しずつ磨くように剥いていきます。
「お米っていうのはりんごと一緒で、皮のすぐ下に旨み層があるので、一度に削ってしまうと一番大事なこの旨み層まで取れてしまうんです。だから時間はかかるけど、先代から変わらぬ古式精米法をつらぬいています。お米の粒の大きさもそれぞれ違うし、季節によって乾燥具合も違う。だからこそ、そのときのお米にとってちょうど良い精米をするために、目で見て白さを確認して、音と香りで変化を確認するんです」
そんな隅田屋商店のお米は、お寿司屋さんや高級料亭などでも使われています。用途別だけでなく、たとえば同じお寿司屋さんでも個々に「お米のオリジナルブレンド」を作っているそう。そのお店の寿司酢の特徴やネタの種類、シャリの大きさなど細かい特徴まで聞いて、要望に応えているそう。
「でも、隅田屋が売りにしているこういったオリジナルブレンドや用途別のお米の提案というのは、基本的には昔のお米屋さんがみんなやってきたことです。そのノウハウを一般の方々にも展開していったんです」
隅田屋が一般向けに販売しているお米は、その年の産地ごとの気候や獲れ高を把握したうえで、数種類のお米をバランスよく配合し、しっかりと説明を添えているのが特徴です。
「日本国民の皆さんにとっての『ごはん』の選択肢を広げたいと思っています。皆さんのご家庭のお米櫃に入っているお米って、ずっと同じであることが多いんです。例えば『ウチは新潟のコシヒカリを食べてる』っていうお家は、ずっとそれしか食べていない。でもお米って一年で育つものなので、野菜と一緒で生育状況などによって新潟が美味しかった年もあればそうでない年もあるんですよ。だから本来は選択肢があって、『今年は美味しいから新潟のコシヒカリを食べよう』なんだけど、日本人って主食であるごはんに関しては思考停止しがち。だからそこを変えてあげたいなと」
隅田屋商店がお米のパッケージや販売する量にもこだわっているのは、一般の人々が「いつもと違うお米を買ってみようかな」と思う機会を作ろうとしているから。おしゃれなデザインで、お米業界ではあまりない「ジャケ買い」をしてもらう狙いがあるそうです。
「どんな理由からでも、まずは買って食べてみてもらって、そこで初めて味の違いが分かるはずです。だからお試ししやすいように、ウチの商品は2合分の300gから用意しています。本来なら5〜10kgぐらいがお米屋としては効率が良いのですが、それよりもまずは選択肢を広げてもらいたいんです」
一般の方々に「お米の選択肢」を広げてもらうために、片山さんは国内外の各地に出向いて、炊飯のワークショップまで行っているというから、その熱意におどろきです。
炊飯のアップデートで変わる「ごはん」の価値観
「ごはんの美味しさを左右するのは、原料のお米が3割、精米度合いが3割、ご飯の炊き方が4割だと私は思っています。お米はあくまで原料であって、炊いてはじめて食べられるもの。だから最後の工程まで責任を持つという考え方のもと、生産・精米・炊飯という3つの工程に目を向けています。
それに炊飯って、なかなか知識の更新がされていないんです。お米は新しい銘柄も増えているし、栽培方法も変わっている。だから炊き方もそれに合わせていかないといけないのに、それを知る機会がない。だったら私が提供しようということで、炊飯ワークショップを行っています」
炊飯の方法は、鉄鍋、土鍋、炊飯器の大きく3種類。それぞれの炊き方のコツを説明し、実際に一緒に炊いて試食しながら体験することで、参加者の皆さんからは「いつもと同じお米で、使う道具も同じなのに、格段にごはんが美味しくなった」との声がたくさん届くそうです。
また、少人数でのワークショップで、参加者それぞれの好みを聞き、それぞれに最適な炊き方を伝えるのが、片山さん流です。「美味しい炊き方」としてマニュアル化できないからこそ、ワークショップとしてリアルに体験してもらうことを大事にしています。
「1+1=2という訳にはいかないからこそ、炊飯は難しいし面白い。私のワークショップでは食べ比べをやるんですが、『いやいや私は分からないよ』と言っていた方でも、やってみると100%違いが分かるのは、日本人の特徴です。そういうことにも気づいてもらいたいし、自分の好みを知るとお米をもっと楽しめる。だから『ごはんを楽しみましょうよ』と言いたいです。おかずの脇役じゃなくてね」
さらに、片山さんの活動範囲は日本には留まらず、アメリカやシンガポール、香港、台湾、オーストラリアでも炊飯のノウハウを伝えているそうです。日本の食材を取り扱うスーパーマーケットのほか、海外の高級寿司店にも片山さんが直接足を運び、隅田屋商店のブレンド米を炊飯して食べてもらうことで、日本のお米で食べる和食の魅力を伝えています。
「和食は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されているくらい世界的に認められています。さらに、海外では高級なお寿司は10万円以上するのに人気があります。それなのに現地でのお米の調達に苦労しているお店が多いんです。だからうちがオリジナルブレンドしますよと。お米が変わるとものすごく美味しくなるのを実感してもらえるので、取引先は海外まで広がっているんです」
いい食材にいいお米。嗜好品のように楽しむ日があっても良い
隅田屋商店の商品は「お米ギフト」としても販売されていて、墨田区で生まれた商品やメニューを認証する「すみだモダン」にも選ばれています。
「すみだ」の名前が付いたお店がこだわりを持って販売しているお米は、どこかイースト東京のアイデンティを感じられるアイテム。せっかく食べるなら、粋に楽しみたいものです。
お客さんの中には、合羽橋の道具街で専用の土鍋を買って、そのままお店に「どのお米をどうやって炊いたらいいか」を相談しに来る方までいらっしゃるそう。そこまで楽しめたら、それこそ豊かな暮らしですよね。
最後に、片山さんの想いを伺いました。
「お米は日本人にとって生活必需品、つまりインフラです。そういう側面では誰もがいつでもどこでも安く買えるものであるべきで、スーパーでも買えないといけません。でも一方で、コーヒーやワインのように嗜好品としての立ち位置があった方が面白いなと思うので、ウチではそんな商品展開をしています。
普段のお米は手に届きやすいものでいいんです。でも実家から旬の食材が届いたとか、ふるさと納税でいいものが届いた時には、その日の分だけ特別なお米を買いに来ればいいじゃないですか。贅沢だけど、野菜で考えたらよくやっていることですよね。これを食べるからあれを買いに行こうって。だから私たちは、量を売るんじゃなくて、楽しみを売りたいんです」
お米を選んでごはんを炊くというのは、食卓が豊かになること。
これまでのお米に対する価値観が変わるような体験をしてみたくなったら、まずは隅田屋商店の商品を手に取ってみるのが良さそうです。
素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞)
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※本記事に掲載している情報は、2023年1月時点のものです。
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