他にない個性で一番に。バナナ専門のスイーツショップ、バナナファクトリーが地域に愛される理由
ケーキ屋さんの定番であるショートケーキ。でも今回の場合、てっぺんに乗っているのはイチゴではありません。
バナナファクトリーは、その名の通りバナナ専門のスイーツショップ。ケーキに乗っているのも、もちろんバナナです。
そんな、バナナづくしのお店にやってくるのはバナナ好きばかり…とは限らないようで、下町のご近所さんにも愛される場所となっているそう。
でも、そもそもなぜバナナ? どうしてこの場所に? 気になるあれこれについて、オーナーの市村健人さん、シェフパティシエの佐久間竜太さんに伺いました。
パティスリーと同じ土俵ではなく、独自のやり方で「喜んでもらうお店」を
バナナファクトリーがあるのは、とうきょうスカイツリー駅から徒歩5分ほどの路地裏。決して人通りが多いメインストリートとは言えない場所ですが、平日の開店直後でも、次々とお客さんが店内に入っていきます。2017年の11月にオープンしてから、今も人気が絶えることはありません。
まずはお二人に、バナナのスイーツ専門店をはじめたきっかけを教えてもらいました。
大学の同級生でもあるお二人。市村さんが事業を始めようと思ったときに佐久間さんに声をかけたのが、バナナファクトリーの始まりでした。
市村さん「大学卒業後に世界中を旅していく中で、各国の食文化に興味を持ち始めました。食の分野の中でも人に喜んでもらえるお店をやりたいと思ったんです。そこで思い付いたのはケーキ屋さん。一年に一度の誕生日や大切なときのお祝いだったり、ちょっと贅沢なおやつとして人をハッピーにするものですよね。ちょうど佐久間はパティシエとして経験を積んできていたので『どんなケーキ屋さんをやろうか』と考えて、最終的にバナナ専門になったんです」
綺麗なケーキが並ぶ「パティスリー」と呼ばれるようなスイーツショップは、すでに世の中に数えきれないほどあります。その土俵に行くよりも、他に誰もやっていない自分たちだけのジャンルで1番になろうと考えた市村さん。
その中で、果物に特化したら分かりやすいんじゃないかと考え、もともと好きだったバナナが主役に選ばれたのだそうです。
佐久間さん「他のスイーツショップとの違いですか? バナナしか使えないところです(笑)でも、バナナは黒くなりやすかったり、傷みやすかったりと、扱いが難しくて。だからバナナに特化したスイーツを作っている人がいないんだなと、実際にやってみて感じました。でも、逆にうまく活用して改善していければ、他にない店になるとは思いましたね」
バナナファクトリーがオープンした当初から一番人気のスイーツは、こちらの「バナナパイ」。サクサクのパイ生地に、バナナ、あんこ、クリームチーズが入っています。
市村さん「この辺りは下町なので和菓子屋さんがたくさんあります。それに年齢層が高い方もたくさんいらっしゃるので、和の要素があるスイーツを出したら親しみやすいかなと思い『あんこを使ったお菓子を作ってほしい』と佐久間にお願いしたんです。それででき上がったのが『バナナパイ』でした」
佐久間さん「僕はもともとあんこがあまり好きではなかったんです。だからこそ、どうやったらちょうど良い味わいになるかなと配合などを考えました。その結果、あんこが苦手な人も美味しく食べられるようにクリームチーズとバナナを合わせた絶妙なバランスのパイが焼きあがりました」
バナナという主役を生かしつつ、クセがないのでさまざまな人に食べてもらえる「バナナパイ」。イベントなどでは一日1,000個売れるほどの人気商品だそうです。
佐久間さん「もちろんバナナを生かして作ることが一番大事なのですが、スイーツの種類によってバナナをしっかり感じられるものと、あえて控えめにしたものと分けて作るようにしています。バナナの成熟具合によってどんなスイーツに使うかを変えたりもしています」
ひとことでバナナのスイーツといっても、工夫をしながらさまざまなバリエーションのものを日々作っているそう。また、日本の四季に合わせた季節感を味わえる限定のスイーツや、近隣店舗とのコラボ企画も定期的に開催しているといいます。
これこそが、バナナに特化しつつ、お客さんが途絶えない秘訣なのかもしれません。
市村さん「週に一度の楽しみとして来てくださる方、近所の会社で働いていて毎日来てくださる方など、思った以上に高い頻度でいらっしゃるお客さんが多くて嬉しいです。
常にワクワク楽しく笑顔になるお店作りを心掛けています。一年を通じて約10回程のイベントを企画。ハロウィンの時期には武器であるバナナを封印し、「かぼちゃがバナナをジャック」するイベントをしたり。普通のケーキ屋さんでは絶対やらないでしょってことを我々のお店ではやってしまう少し変わっているケーキ屋さんかもしれません(笑)」
毎日立ち寄りたくなるような温かみのある店構え
メインとなるスイーツだけでなく、「場所」への考え方もバナナファクトリーならではの個性が詰まっています。
市村さん「バナナ専門のスイーツショップをやろうと決めたときに、正直場所はどこでも問題ないとは思っていました。バナナが好きな人が目指して来てくれて、路地裏にあることでお店に辿り着くまでもワクワクする時間が楽しめる。その方が人にも伝えたくなるかなって。
その中でこの場所を選んだのは、押上と浅草という2つの観光名所が近くにあって、新しいマンションもでき始めている、これからまちづくりが進んでいきそうな下町だったからです。まずは地元の方々に愛されるようなお店になって、第二段階として、観光客の方にも来てもらえるお店になることが目標でした」
「温もりのある、ほっとするようなお店にしたい」という市村さんの思いから、お店には木材がふんだんに使われています。
さらに、所々に見つかるゴリラやバナナのマークに、思わずクスッと笑顔になってしまう仕掛けが施されているのもポイント。ぜひ実際にお店に足を運んで、「こんなところにも?」と楽しんでもらいたいです。
また、イートインスペースがお店の正面に設置されているのにもこだわりがあるそう。
市村さん「バナナファクトリーは、ケーキを買うような特別な日でなくても立ち寄ってもらえるように、あえて看板や旗などを置いていないんです。代わりに、このカウンターを使ってくれているお客さんの姿が遠くからでも見えることで、『何やってるんだろう?』と気になってもらえるんじゃないかなと。
このカウンターは主にジューススタンドや待ち合わせ場所として使ってもらおうと作ったものなんですが、ここでバナナジュースを補給してもらって、その人たちが一日を元気に過ごしてもらえたらいいなって」
創業当初から変わらない「人に喜んでもらうためのお店」というコンセプトは、美味しいバナナスイーツだけでなく、空間にまで隅々に行き届いています。
個性あるお店を増やし、街の活性化に貢献したい
長く住んでいる人も多い下町の住宅地にあるバナナファクトリー。地域とのつながりはどのように意識しているのでしょうか?
市村さん「私たちのお店は、近所の方々に助けてもらってきたお店です。もともと僕らは体育会系だったので、近隣の方々に挨拶をしたり、子ども達と遊んだりとコミュニケーションを取ったりするのは自然なことだったのですが、それがきっかけで地元の方々に応援してもらえるようになっていって。オープン当初は近所の方々に支えてもらい、さらに口コミで広げてもらったからこそ今があるんです」
取材をしている最中にも、通りがかりのトラックからおじさんが陽気に声をかけてくれたり、通行人の方やお客さんと親しげに挨拶を交わしていた市村さんと佐久間さん。普段からどれほど地域の方々と親しんでいるのかが分かります。
その影響もあってか、バナナファクトリーのお客さんの6割以上が近所の方々なのだそう。専門店だからこそ、幅広く好きになってもらおうとするのではなく、関わってくれる人や足を運んでくれる人を丁寧に大切にしているのだそうです。
最後に、今後についてもお聞きしました。
市村さん「バナナのお店をやっている以上、これからはバナナの生産から取り組んでいきたいなと思っています。最近はようやく国産バナナの育つ土壌が整ってきているので、普段なかなか国産バナナを食べる機会のない方々に、そのおいしさを味わってもらう機会を作りたいです」
市村さん「それと同時に、地域の活性化にも貢献していきたいと思っています。必要とされそうなもの、僕らがいいなと思ったものにチャレンジしていって、街を盛り上げるようなお店をトントンと作っていきたいです。
実は、近々この辺りで2店舗オープンすることが決まっているんです。バナナファクトリーのように個性を大事にしつつ、他になくワクワクするお店を僕らならではの魅力として広げていければいいなと思っています。
下町のバナナ屋から世界へ。将来的にはアメリカのニューヨークでお店を開くことが夢でもあります。世界中から訪れる外国人が集まる街で、人を喜ばせられるお店を作り笑顔の繋ぎ役となれる存在になりたいです。」
新しいお店ができることで、その地域がよりハッピーに、活気ある場所になっていく。個人店ならではの魅力を発信しながら、今日もバナナファクトリーでは笑顔のコミュニケーションが生まれていることでしょう。
お散歩が気持ちいい季節。バナナのスイーツと共に、イースト東京の新しい風を感じてみませんか?
素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞)
住所 | 東京都墨田区向島3-34-17大橋ビル1F Google mapで見る |
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※本記事に掲載している情報は、2023年4月時点のものです。
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