スパイス料理のパイオニアspice cafeがつくる新たな「美味しい」の世界
墨田区の文花という場所に、静かに佇みながらも大きな存在感を放つ、スパイスカフェ。
日本で「スパイスカレー」という言葉さえ浸透していなかった約20年前に、オープンしたこのお店には、遠方からも多くの人が足を運びます。
店主の伊藤一城さんは、いわば日本におけるスパイス料理のパイオニア的存在。レシピ本の執筆やコラボレーション企画に携わりながらも、厨房に立ち続けてきました。
そんな伊藤さんの哲学がたっぷり詰め込まれたスパイス料理は、これからまた新たな「美味しさ」を私たちに届けてくれそうです。
内観も外観も印象的な雰囲気のお店で、お話を伺いました。
ひっそりと、スパイスに魅了される特別なひととき
地図アプリを頼りにしながらお店を目指していくと、大通りから一本入ったところに現れた、緑の生い茂る建物。
「ここで合っているのかな?」と入り口をのぞいてみると、OPENの看板が見えました。
少し心細いような気持ちで入り口を進み、ドアを開けると、スパイスの豊かな香りがふわり。急にお腹が空いてきました。
中に入ると、建物を覆い尽くすように茂っている植物たちを窓辺に感じながら、まるで俗世から離れたような、落ち着ける空間が広がっていました。
ここは、店主・伊藤さんのご実家の隣に建てられていた木造アパートを、お店としてリノベーションした場所。時代モノの建具などを生かしながら、伊藤さんとその仲間たちで自ら作りあげた空間だそうです。
こちらの2品は、ココナッツカレーと冷やしラッサム(南インドの野菜カレー)。付け合わせの野菜も含め、口に運ぶたびに「スパイスってこんなにバリエーションのある味付けになるんだ…」と感動してしまいました。
この日は暑かったこともあり、スパイス料理を食べた後は心も体もパワーチャージができたような気分になりました。
スパイスカフェでは、ランチタイムとディナータイムがあります。ディナーにはコースメニューもあり、飲み物とのペアリングでスパイス料理を堪能することも。スパイスに対するイメージの幅がどんどん広がっていきそうです。
何者かになるために。世界中を周り見つけた料理人という仕事
伊藤さんがスパイスカフェをはじめた20年前は、スパイスといえばカレー。さらに、カレーといえばルーで作る欧風カレーのスタイルのものが主流だった時代。
そんな中で、なぜスパイス料理のお店を作る道を選んだのでしょうか。
「元々は会社員として働いていたのですが、もっと広い世界を知りたくて、バックパッカーで48か国を巡る経験をしたんです。そこで出会った旅人たちが、自分のことを語るときにまず『教師だ』とか『プログラマーだ』といって、職業の話をしていて。『自分は4年も会社で働いていたのに何者にもなれていないな』と。そこで、好きだった料理の道に進もうと思ったのがはじまりです」
「そこで、帰国して多国籍料理の店で下積みをはじめたのですが、やっぱり広く浅くではなく、一つを深めようと考えたら、世界を旅している時に出逢ったスパイスって面白かったなと。
現地で南インド料理を食べた時に、当時の日本で食べていたカレーとは全く違うスパイスカレーに出逢ったり、さらには世界を見渡すとスパイスが使われているのはカレーだけではなかったり。例えば、アフリカやヨーロッパはもちろん中南米でもスパイスを使った料理はたくさんあります。そこで、日本でまだ知られてないスパイス料理の店をぜひやりたいと思ったんです」
とはいえ、伊藤さんの料理の主役は、スパイスではなく「旬の食材」。あくまでスパイスは引き立て役だそうです。
「現地で食べた味をそのまま再現するのではなく、自分のフィルターを通して、日本で食べる日本人のための日本人が作るスパイス料理をやりたいんです。日本には、豊かな四季があって、旬がある、そんな気候風土に合う食材を使うということですね。
それに、世の中ではたくさんの種類のスパイスを使うことが良いとされがちですが、僕はできるだけスパイスをシンプルにして、その時々の旬な食材の美味しさをいかに引き出せるかを大事にしています」
例えば、夏の時期ならイワシやトウモロコシのビリヤニも。伊藤さんのスパイス料理は、「どんなメニューを作るか」から決めるのではなく、「どんな食材を使うか」が起点になっているといいます。
「日本各地の美味しい食材を使い、その土地で期間限定の出張料理イベントをすることもあります。そういった縁でつながった食材を、スパイスカフェでもお客様に召し上がってもらえるようにしているんです」
最近では、スパイスカフェでワイナリーとのコラボディナーを開催することも。
伊藤さん自らが日本のあちこちへ出向いて見つけてきた美味しいものたちを、スパイスと共に墨田区のこの場所で味わうことができる。そう考えると、スパイスカフェで過ごすひとときが、よりスペシャルなものに感じられそうです。
食材の美味しさに喜びを感じられるスパイス料理を
スパイスカフェがオープンしてから約20年。長い間この街を見てきた伊藤さんは、どんな変化を感じているのでしょうか。
「この店をはじめたのは、リノベーションという言葉が聞こえはじめた頃です。当時はこの辺りにはカフェなんて一軒もないと言われていた中で、この店をマスコミに取り上げてもらい、徐々に知ってもらえるようになりました。今はスカイツリーが完成したことですっかりこの街も盛り上がっていますよね」
「ここ数年考えているのは、『大人として社会にどう貢献するか』ということ。2、3年前までは、僕がずっとキッチンの中に入っていて、それができないときはお店を閉めていたのですが、考え方を変えたんです。2年前に日本橋兜町に2号店を作ったことで、この店も、僕がいなくてもできるオペレーションにして、その代わりに『外に出ていく仕事をしよう』と」
「例えばお店の監修をしたり、地域の生産者に会ったり、レシピ本を書いたりしている中で、最近力を入れているのはポップアップレストランです。1日2日のポップアップレストランはこれまでも全国でやっていたのですが、それを1か月単位でやる。沖縄や長野で場所を借りて、1か月営業することで、生産者や料理人とつながったり、東京から現地に料理人を連れて行って、お互いに刺激し合うことで、より可能性を広げていきたいんです」
カレーのみならず、日本でのスパイス料理文化を引っ張ってきたスパイスカフェ。伊藤さんの新たな動きによって、さらなる感動が生まれる気がしてなりません。
食材のおいしさに喜びを感じられるようなスパイス料理を、ぜひ味わいに出かけてみてください。
素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞 撮影:花田友歌)
住所 | 東京都墨田区文花1-6-10 Google mapで見る |
---|---|
営業時間 | 11:30〜15:00 (14:00 L.O.)※予約不可/18:00〜23:00 (20:30 L.O.)※週末はコースのみ |
定休日 | 月・火曜 |
TEL | 03−3613-4020/予約専用:050-3134-4020 |
WEB | https://spicecafe.jp/ |
SNS | Instagram , Facebook , X(旧Twitter) |
※本記事に掲載している情報は、2023年8月時点のものです。
0