錦糸町発!ハロー!イースト東京 この街のだいすきなところ、またひとつ

すみだのものづくりを世界へ広げて。サクラワクスの商品で「上質」と暮らす

古くから革産業が盛んな街として知られる墨田区ですが、なかでも技術力・発信力ともに異彩を放っている企業があります。

それが、今回ご紹介するサクラワクス。

腕のある職人しか加工することを許されてこなかったクロコダイルを扱う工房は、日本全国を見てもかなり少ないといいます。

そんな家業のもとで生まれ育ち、ものづくりの世界で経験を積んできた和久真弓社長のまなざしは、世界に向いていました。

墨田区の仲間たちと共創することで「ほかにないもの」をどんどん生み出していくサクラワクスの魅力に迫ります。

海外ブランドに触れて気がついた、日本のものづくりの素晴らしさ

東京スカイツリーから歩いて5分もかからない路地の一角にあるタイル張りのビル。その一階に「サクラワクス」の文字を見つけて訪ねると、太陽のように明るい女性が迎えてくれました。

代表の和久さん

ショールームも兼ねているエントランスには、気になるアイテムがずらり。一つひとつ詳しく聞きたいところですが、まずは会社の沿革から教えてもらいます。

「ウチは父の代から革製品の会社をやっていて、60年の歴史があります。父の兄弟もいとこもみんな革の職人。工房と住居が同じ建物になっているので、私は小さい頃から朝起きるとそこに革があるような生活をしていました。当時は住み込みの職人もいたので、常に家族が10人くらいいるみたいな環境でしたね。

染めから、型抜き、縫製など加工し商品を箱に入れて問屋に納品する作業まで全体を担い、昔からブランドのOEMが中心でした」

そう言って戸棚から出して見せていただいたのがこちら。

高級車を扱うブランドの特注キーケース

何十年も前に作られた革製のキーケースの在庫だそうですが、今こうして見ても、その精巧さに魅せられます。

こうして長年技術力の高い職人を抱えていたからこそ、クロコダイルやリザード、オーストリッチなどの高級素材を使用したものづくりも専門的に行ってきたそう。

「例えばクロコダイルは素材に立体感があるので、革の厚みを平均的に整えるのがすごく難しいんです。万が一穴が空いてしまったりすれば数万円の損失にもなってしまうので、昔から熟練の職人しか触らせてもらえなかった素材なんです」

高級素材の革として知られるクロコダイル

「でもね、細かい作業や下処理、裁断の工程が多く、こんなに面倒な商売、誰が継ぐもんかと思ってたんです(笑)」

ところが、社会人になって、その考えが変わりはじめたといいます。

「ファッションやデザインが昔から好きで、青山にある海外ブランドを扱う会社に就職したんです。だけど、海外製のバッグなどの革製品を見ていくうちに、『日本製のものの方が丁寧に作られているな』と思うようになって」

和久さんにとっては幼い頃から身近な存在であった「日本のものづくり」。ただそれは、世界的に見たらかなり高度で、当たり前ではないことに気付かされたのだそう。

そんな実体験をきっかけに、働きながら学校に通い、デザイナーとして次のキャリアをスタートさせた和久さんは、日本製のものづくりをする企業で数々のヒット商品を生み出していきました。中には、有名ドラマの主人公が持つバッグをデザインしたこともあるんだとか。

その後、結婚、出産を機に個人での製作をはじめ、結果として家業を継ぐことになったのだそう。

「はじめは『紗蔵』として個人の屋号で活動していたんです。名前の由来は、桜の名所である墨田と、『高級のものを包むという意味がある紗と日本の良いものを蔵出しする』という意味から。でも、だんだんと大手企業さんとのコラボレーションが増えてきたので、サクラワクスとして法人化したんです」

妥協のない技術とデザイン性で海外のセレクトショップにも選ばれる商品を

「私、動いていないと調子が狂っちゃうの。寝るのがもったいなくって」

そう笑いながら、これまで和久さんが手掛けてきた商品を次々とご紹介してもらいました。サクラワクスの商品は日本に留まらず、サンフランシスコやニューヨーク、パリなどのセレクトショップやミュージアムショップにも置かれているそうです。

「海外の展示会に積極的に参加して、現地のショップに『Hi!今ここで展示会をやってるから見にきて!』ってチラシを配って、一軒一軒つながりを作ってきました。日本のものづくりの強みを生かしたデザイン製のある商品は、海外での評価も高いんです」

サクラワクスのものづくりには、一切の妥協がありません。だからこそNoguchi NY※でも取り扱われ、その価値を認められているのです。

※ Isamu Noguchi NY… ニューヨーク にある「イサム ノグチ NY ミュージアムショップ」。日々の暮らしに高い品質性や創造性、デザインの革新性をもたらすアイテムを世界中からキュレーションしている。

スタッズ風の立体的なデザインがニューヨークでも人気のがま口。マチが無く薄いのに、10円玉が80枚も入るそう

「ウチは革からオリジナルで染めているので色味にも妥協がないし、革にデザインを施す時も一流のグラフィックデザイナーやプロダクトデザイナーに頼んで、まずデザインを起こしてから加工をしています。革だけじゃなくって、例えばがま口だったら口金の部分も特注なの。素材も真鍮にこだわって、日本の工房で大きさや幅、留金部分の丸の大きさまで、コンマ何ミリの単位までこだわった機能美を追求しているんですよ」

iPadもペットボトルも入るがま口のポーチは、革の中に芯材を入れなくても自立するよう計算し尽くされています

ニット柄の型押しが美しいこちらは、御用達の手彫り職人に頼み込んで作ってもらったそう

「素晴らしい日本の技術といかにコラボして、世の中にないデザインの商品を作るかが大事だと思うんですよね。その分、一つひとつの商品を生み出すまでは何度も試作をしたりと大変だけど、こだわればこだわった分だけストーリー性が生まれるもの。商品それぞれについて何時間だって話せますよ(笑)」

紙のように薄くすいた牛革を貼り合わせたうちわ。完成まで30本も試作をしたそう。「すみだモダン」認証だけでなく、台湾の「PIN DESIGN AWARD」も 受賞しています。自動車のノベルティやアパレルブランドとのコラボ商品としても採用されています

素材、技、地域。すべてにこだわる「上質」を身につける

世界に目を向ける一方で、和久さんが大事にしながら活動しているのが、「一般向けのワークショップ」と「すみだのものづくりのつながり」です。

「ワークショップは、3歳の子も作れるようなものから、中高生、大人まで、幅広い人たちに向けて行なっています。まずは革の学習をしてから、端切れを使用したかわいい花びらなどのパーツを選び、革小物につけてもらうんです。貴重ではあるけれど、クロコダイルの端材なんかも惜しまず出しています(笑)。こういう体験を通して、『良いもの』の価値観を養ってもらえたらいいなと思って」

ワークショップのために用意されたたくさんの端切れ

こうして革を無駄なく活かすだけでなく、SDGsの観点でも素材選びに配慮しているそう。

「牛革などは、食肉牛の副産物として活かせるものを日本の業者から仕入れて加工しています。イタリアンレザーも価値があってステータスになるけれど、私たちはそれよりも背景が分かる素材を仕入れて、自分たちで上質に加工していくことが大事だと思っているから。傷があったらそこが目立たないように加工すればいいんです」

また、地域のものづくり企業で構成される「すみだ東京ものづくり計画(STMK)」の代表も務める和久さん。仲間たちと手を取り合って販路を拡大していく取り組みにも積極的です。

「STMKは設立して13年ほど。ものづくり企業の我々は、作るだけで問屋さんを通してでしか販売ができず、苦労してきた歴史があります。子どもの頃から親たちのそういう姿を見てきているからこそ、皆んなで一緒に海外の展示会に出たりしながら、それぞれが販路を拡大していく手助けをしていきたいなって。

それにね、この辺のものづくりの仲間って、ほとんどが2代目や3代目で、小学校の同級生なんです(笑)お互いに小さい頃から知っているから『一緒にやろうよ!』って」

新商品の開発をする際も、なるべく墨田区で声をかけているそう。そうして生まれたのが、オリジナルのレザーシャンプーです。

こちらのデザインは海外向けのもの。ちょっとしたギフトにも喜ばれそうです

「墨田区はせっけん関係の企業も多いし、パッケージの印刷も地元の会社にお願いしています。自社だけではなく、横の流通を広げて、墨田全体で売上が伸びるようにWIN WINの関係で助け合い、産業と技の発展に繋がればいいですね。」

素材にこだわり、技にこだわり、地域にこだわる。そんな熱意の末に生まれたアイテムを、あなたもお一つ身につけてみませんか?

素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。

(取材・執筆:山越栞  撮影:花田友歌)

SAKURA WAQS サクラワクス
住所東京都墨田区業平1-7-12  Google mapで見る
営業時間10:00〜18:00
WEBhttp://leather-handmade.com
SNS Instagramfacebook

※本記事に掲載している情報は、2023年10月時点のものです。

1