- 墨田区八広
日常に豚さんの彩りを。優しさが詰まったSai(サイ)のレザーアイテム
東京都墨田区八広。日本一の豚革の産地であるこの場所に、異色の経歴を持つ一人の男性が、豚革を使ったオリジナルブランドのお店をオープンしました。
100%国内生産が可能な唯一のレザーアイテムである豚革。とはいえなかなか知られていない現状を変えていくために、この場所はどんな活躍をしていくのでしょうか。
「Sai(サイ)」というブランド名に込めた想いや、豚革の魅力、そして今後目指していくことなどを、代表の児嶋さんに伺います。
命あるものに敬意を。Saiが豚革のアイテムをつくる理由
新旧の建物が入り混じる下町の風景。大通りに面した長屋の一角を訪ねると、カウンター越しに、優しい笑顔で出迎えてくださる店主の姿が。
児嶋さんは、なんとプロキックボクサーとしてリングに上がってきたという経歴の持ち主。豚革との出逢いをきっかけに事業を立ち上げ、プロの道を引退してまで、Saiの活動に力を注いでいます。
「豚革のことを知ったのは、もともとファッションが好きだったこともあり、趣味が高じてオリジナルの革靴を限定200足で制作したのがきっかけでした。当時は牛革を使ったのですが、そのとき取引をさせていただいた革の会社さんのところで、はじめて豚革という存在に興味を持ったんです」
児嶋さんの出身は、豚肉の生産が盛んな茨城県。地元には家業で豚の飼育をしている同級生もいることから、最初は豚革を見て親近感を抱いたそうです。
「そこで知ったのが、100%国内での自給自足が可能な本革は、豚革だけだということ。さらには、豚革は食肉用に育てられた豚さんの“副産物”として生まれるものなんです。
そもそも、豚肉は戦後の国民の食生活を支えてくれた大事なタンパク源でした。今でも豚肉は日本人の食生活にとって欠かせないものですよね。そんな豚さんの命を大切にいただき、革も素材として使わせてもらうという『豚革そのもののあり方』に魅力を感じて、ブランドを立ち上げることにしました」
児嶋さんの豚革に対する想いは、「Sai」というブランド名にも込められています。
「豚なのにサイ?とよく聞かれるのですが、そんなこと当時は気づきもしなくて(笑)。Saiというのは、アジサイの花のサイ(彩)からとっているんです。アジサイというのはもともと日本の花ですが、海外で人気が出てから日本でも定番の花としての地位を確立したと言われています。豚革も同じように、今はマイナーな素材ではあるけれど、アジサイのように世界でも国内でももっと人気になっていって欲しいという想いを込めています」
上の写真の水色の革は、まさにアジサイのような色味を表現した、児嶋さんの大好きなカラーリングだそう。このように優しい発色を表現できるのも、豚革ならではの魅力だと言います。
「豚革は人間の肌質にも近いとされていて、他のレザー製品にはない優しい触り心地と通気性の良さも特徴です。
よく見ると表面に模様のようなものが見られたりするのですが、それは豚さんたちが生きていたころについた傷やシワ。そういったものも活かして、命を大切に使わせてもらいながらも、一点ものの風合いを商品に込めていきたいと思っています」
ブランドを立ち上げた一方で、豚革の加工という面においては、まだまだキャリアを積んでいる真っ最中の児嶋さん。職人さんに製作を外注するだけでなく、豚革産業をしっかり伝えていくために、自らも週に何度か豚革工場で作業の手伝いもしているそうです。
「どの伝統産業にも言えることですが、豚革産業でもやはり職人さんの高齢化や技術の後継者不足といった課題があります。Saiを通して豚革の発信をしていくことで、より多くの人に興味を持ってもらえたら嬉しいなと思っています」
そういった意思の表れとしても、児嶋さんは豚革の製造が盛んなこの場所にお店を構えているのだそうです。
場を持ったからこそ、買わなくてもお店に来られる理由をつくりたい
豚革を広めようと活動をはじめた児嶋さんがSaiを立ち上げたのは2021年。
以降、クラウドファウンディングを活用しながら応援者を集め、ブース出店やイベント登壇、間借りでのポップアップ営業などを行なってきた末、2023年12月にショップをオープンさせました。
「間借り営業をさせてもらっていたとき、中に入りきれず、遠方からわざわざ足を運んでくださったお客さまにお店の外で少し待っていただくようなことが起きてしまって。そこで、もっとゆっくりと商品を見てもらえるような場所を持ちたいと思っていたところ、ちょうど八広の明治通り沿いにある物件が空いたと紹介してもらったんです。僕は豚革の『地産地消』の考え方も大事にしたかったので、豚革の産地である八広にお店を持つことは願ったり叶ったりでした」
児嶋さんがお店をつくるにあたって大事にしたかったのは、”買わなくてもいい状態”をつくること。
「買わなくても“見る理由”をいっぱいつくりたくて、カフェとしても気軽に利用してもらえるような飲食スペースもつくることにしたんです。そのなかで商品を何度も見たり手にとってもらい、僕もお話しをさせてもらうなかで関係性を築いていきたいなって」
そんな理由から、Saiのカウンターには、児嶋さん自らセレクトした「CHIMNEY COFFEE」のコーヒーやカフェオレ、「深川ワイナリー東京」のグラスワインなど、提供してくれるドリンク類が並びます。
オープンしてから数ヶ月。すでにご近所さんが飲み物をテイクアウトして行ってくれたり、「一日店長」と題した知人を招いてのイベントが開催されたりと、商品を買う以外にも人との交流が生まれる場になりつつあるそうです。
また、場があるということを活かして、今後は予約制のワークショップも体験できるとのこと。
展示会への参加をきっかけに知り合った家具の産地、福岡県大川市の大川家具さんとのコラボレーションによるスツールづくりは、親子連れでのワークショップにもぴったりです。
これは、「日本一の家具の産地」と「日本一の豚革の産地」のコラボレーションということではじめたワークショップ。展示会場で開催したところ、すぐに満員御礼となってしまったくらい大好評だったそうです。
食材として命をいただき、身の回りの道具として豚革を使う。そんな食育とつながる側面でも、子どもたちにとってSaiの存在は大切なことを教えてくれそうです。
下町のあたたかなご近所付き合いに、新たなコミュニティを
豚革に魅せられ、今では担い手としてSaiというブランドを育てている児嶋さん。地産地消の考えのもと移り住んできた墨田区での暮らしを、どんな風に感じているのでしょう?
「この辺りの人たちは本当に気さくに声をかけてくれるので、地元の茨城よりもいい意味で田舎っぽいというか。人とのつながりを感じられる場所です。ここにSaiとしての場所ができたからこそ、今後はこの場所に人が集まるコミュニティをつくっていきたいですし、この場所を通してつながっていった人たちが、より豚革の魅力を感じてくれるようになったらいいなと思っています」
最後に、Saiのアイテムをどんな風に使ってもらいたいかもお聞きしました。
「淡い色合いだから汚れないように使いたい、日常で使うのがもったいないというお声も聞きますが、ケアの方法もどんどんお伝えしていきたいと思っているので、ぜひ気分を上げるアイテムとして、どんどん日常で使っていただきたいです」
”命”という観点から素材を考えてみる。その上で、日々の気持ちを明るくしてくれるアイテムを選ぶ。そんな2つの大切なことが叶えられるブランド、Sai。
ぜひお店に足を運んでお茶でもしながら、店主・児嶋さんとの会話も楽しんでくださいね。
素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。
(取材・執筆:山越栞 撮影:花田友歌)
住所 | 東京都墨田区八広2-45-11 Google mapで見る |
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営業時間 | 公式サイトより月間スケジュールをご確認ください |
WEB | https://sai2021.official.ec/ |
SNS | Instagram , X |
etc. | Get!East Tokyo |
※本記事に掲載している情報は、2024年2月時点のものです。
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