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プラスチックで長く愛せるプロダクトを。業界シェアトップを誇るバキュームモールド工業の「江戸前樹脂工芸」

現代の暮らしにおいて、なくてはならない素材のプラスチック。

一方で、近年では環境への影響などを踏まえ、社会的にプラスチック削減の動きが高まっています。

そのような風潮のなか、プラスチックの関連企業が影響を受けているのは言うまでもありません。

そこで、業界シェアトップを誇るバキュームモード工業は、この現状を新たなチャンスに変えるべく、自社プロジェクトをスタートしました。

半世紀に及ぶものづくりのなかで培った技術が散りばめられた「江戸前樹脂工芸」とは?

代表の北澤さんと、取締役の常楽さんに伺いました。

プラスチックの真空成形金型という、世の中の発展を陰で支えてきた技術

墨田区墨田。荒川と隅田川のちょうど間にあたるこの場所に建つ白い大きなビルが、本日の訪問先であるバキュームモールド工業です。


工場と併設されている事務所へ

迎えてくれたのは、家業を継いで2021年に代表取締役社長に就任した北澤さんと、入社以来25年以上に渡り会社を支えてきた取締役の常楽さんです。


(左)取締役の常楽明宏さん、(右)北澤正起さん

新たに生みだされた自社プロダクトも気になりますが、そもそもバキュームモールド工業はどんなものづくりを主に行ってきたのでしょうか?

北澤さん:弊社は、プラスチックの「真空成形金型」の会社です。これだけではイメージしにくいかもしれませんが、例えばお店で売られているお弁当の容器や、飲み物をテイクアウトした時にカップに被せられているフタ、市販されている歯ブラシを包装するためのパッケージに、お祭りのお面など、みなさんが日頃触れているプラスチック製品の形をつくるための金型を製作しています。


金型の元となる大きな金属のかたまり

プラスチックの真空成形とは、熱してやわらかくしたプラスチックのシートを金型に被せ、その間にある空気を抜くことで、金型に密着したプラスチックを形づくっていく技術のこと。

効率よく大量のプラスチックを成形するのに優れているそうで、北澤さんのおっしゃるように、私たちの日常を支えてくれているプラスチックのアイテムは、ほとんどがこの「真空成形」によって作られたものといっても過言ではありません。




とはいえ、近年は使い捨てプラスチックによる環境破壊などが世界的に問題視されるようになり、世の中は「脱・プラスチック」の風潮に。

加えて、コロナ禍の影響で飲食業などの売上が低迷した結果、そのしわ寄せはバキュームモールド工業にまで及び、一時は赤字になってしまったといいます。

北澤さん:我々はプラスチックと共に成長してきた会社です。世の中では「脱・プラスチック」が叫ばれる中、それをただ受け止めているのではなく、プラスチックだからこその良さを自分たちで発信していく必要があると思ったんです。そこで、売上が落ちて仕事が少なかった時期に、自社プロダクトの開発に踏み切ってみたのがはじまりでした。そこで、取締役の常楽に「こんなのできないかな?」と相談を持ちかけて。


過去にも自社プロダクトに前向きだった常楽さん

常楽さん:自社プロダクトにチャレンジしたかった大きな理由は、他にもあります。というのも、ここ最近は離職率が以前に比べて増加傾向にあったんです。もともと弊社は、離職率が低いことが自慢の会社でもありました。でも「脱・プラスチック」の風潮によって会社の行く先に不安を感じはじめた従業員がいたのも事実。そこで、自分たちで新しいものを生み出して売っていくことで、バキュームモールド工業で働いているという“誇り”をより強く持って働いてもらえるようにしたかったんです。


そんな中、Pit-A-Patというプロダクトデザイン企業に出逢い、新たな活路が見出されます。

北澤さん:Pit-A-Patの大井さんが工場見学に来てくださったときに弊社の技術に興味を持ってくれて、「バキュームモールド工業の技術を活かしたプロダクトを作りましょう」と提案してくれたのがランプだったんです。自社プロダクト作りに注力しようとは思っていたものの、プラスチックは何でも形にできるとはいえ、まさか照明器具を作ることになるとは想像していませんでしたね。

そこから、常楽さんを主導に社内の有志メンバーを集め、通常の業務とは別の、自社プロダクト開発チームが発足されました。

常楽さん:本業がある中で、時間を捻出して自社プロダクトに向き合っていくのは簡単ではありませんでした。普段は金型を眺めているのですが、照明器具を眺めていると違和感があるし、周りから見たら「遊んでるんじゃないのか」って思われてしまったり(笑)。

それでも、社内には「自社の技術をもっと発信していきたい」といった熱意のあるメンバーがたくさんいることが改めてわかったのだそう。

そうして誕生したのが、「江戸前樹脂工芸(えどまえじゅしこうげい)」なのです。

樹脂(プラスチック)に職人技を施した次世代の工芸品ブランド「江戸前樹脂工芸」


「江戸前樹脂工芸」は、工業製品の代名詞とも言えるプラスチック製のプロダクトを「工芸」に高めようと生まれたブランドです。

本来、プラスチック(樹脂)は軽量で耐久性があり、長く使うことができるもの。単純に「環境に悪影響だから使わない」のではなく、そもそも捨てずに「長く使う」という選択もできる素材なのです。

そこで、例えば現在は伝統工芸となっている江戸切子のように、その時代の新しい技術を職人の技を活かして表現し、工芸に値する付加価値をつけることができないかと考えたのだそうです。


本業の金型制作においても、人の手に受け継がれた技術がバキュームモールド工業の強みです

そこで第一弾として発表されたのが、「灯紋様(あかりもんよう)」「重重(かさねがさね)」「器(うつわ)」の3シリーズ。


(左)灯紋様:七宝、(右)重重:金魚と波紋

「灯紋様」は、日本の伝統的な図柄をかたどったプラスチックのプレートに、和紙を重ねて灯をともすことで、優しい光の模様が浮かび上がるモダンなライトです。

また、「重重」は、日本らしい絵柄がプリントされたフィルムを組み合わせて重ねて灯をともすと、まるでスクリーンのように美しい絵が照らし出される仕組み。

どちらもパネルやフィルムを付け替えることで、気分や雰囲気に応じて照らし出される造形を変化させることができます。


「器」は、二重構造の間に好きなアイテムを差し込んでカスタマイズ

こちらの「器」は、自社プロダクトとして早々に開発されたアイテム。プラスチックで二重構造にかたちづくられたランプシェードの隙間に好きなものを挟み込むことで、オリジナルな灯りを楽しむことができます。

2023年には展示会にも出店し、多くのバイヤーさんや企業から注目が集まったそう。想像以上の反響に、社内のメンバーも驚いたそうです。

こうして、「江戸前樹脂工芸」の誕生は、バキュームモールド工業に新しい空気感を生みだしています。

北澤さん:自社プロダクトができたことで展示会に出店したり、工場見学や取材の方がいらっしゃったりと、社内のメンバーが人目につく機会が増えたことが何より嬉しいですね。僕自身は社長でありながらまだ経験も少ないのですが、つながりをどんどん作っていきながら、もっと社員や技術にスポットライトが当たるようにしていきたいです。

常楽さん:そうですね。今までは企業さんから請け負って金型を製作しているのでほとんど表に出ることがなかったからこそ、自社プロダクトができたのは新たな挑戦になっています。最終的にはこれをきっかけに「入社したい」と言ってくれる若手を増やしていきたいですね。

企業の根底に息づく、スタイリッシュと心地よさへのこだわり


墨田区墨田の地で創業して、60年以上。そんなバキュームモールド工業を率いるお二人は、この街にどんな思いを抱いているのでしょうか?

北澤さん:僕はここ墨田で生まれ育ったのですが、ここが地元でよかったなと思っています。この辺はいい意味で変わらずいつもそこに「ある」という印象があるし、地域や行政の方々から「バキュームモールドさん、こんなの協力してくれませんか?」と声をかけていただくこともあって。一緒にさまざまな取り組みをしていける距離感が墨田区ならではですよね。

常楽さん:東京ではあるけれど、都会的すぎないというか。この辺りのお祭りの時期には、長年会社前の広場をお神輿の方々の中継地点として提供しているんです。そういった人々の熱気や文化を身近に感じられるのもいいところだと思います。

東京都内でも、ものづくり企業がひときわ多い墨田区。そんな中、時代に寄り添いながら挑戦を続けるバキュームモールド工業の「江戸前樹脂工芸」は、今後どんな広がりを見せていくのでしょうか。

新旧の「粋」が詰め込まれた灯りを、暮らしにも取り入れてみるのもよさそうです。

素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。

(取材・執筆:山越栞  撮影:花田友歌)

バキュームモールド工業
住所東京都墨田区墨田5-23-11  Google mapで見る
TEL03-3614-1556
WEBhttp://www.vmold.co.jp/
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※本記事に掲載している情報は、2024年3月時点のものです。

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