錦糸町発!ハロー!イースト東京 この街のだいすきなところ、またひとつ
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  • 墨田区江東橋

錦糸町の新たなアイコン和菓子に。

「たらふくもなか」と「錦どら」を生んだ3代目の静かなまなざし

ちょっとした「お持たせ」に、駅前で和菓子を買っていこうかな、なんて思える日々も良いものです。

それに、せっかく買うならその土地に縁のあるものを求めたいですよね。

そんな気分を叶えてくれるのが、白樺さんの「たらふくもなか」と「錦どら」です。

見た目や名前もキャッチーな和菓子たちですが、3代目となった根本幸治さんにお話を伺うと、そこには「これはね…」と誰かに教えたくなるような誕生秘話がありました。

会社員から和菓子屋さんへ。家業の継承を次のキャリアに選ぶ

錦糸町駅の南口から繁華街を抜けて進んでいくと、公園のすぐそばに黄色の軒先が可愛らしい、まちの和菓子屋さんがあります。

ひっそりとしているかと思いきや、伺った休日の昼下がりには、さまざまな年代の人々が立ち止まり、思いおもいの和菓子を買って、紙袋を受け取っては朗らかに帰っていく様子を目にすることができました。


紙袋も可愛らしくて気分が上がります

戦前まもなく開業し、今年で70周年を迎える「御菓子司 白樺」は、長らく錦糸町のまちに根を下ろし、お団子や大福などの生菓子をメインに作り続けてきたお店です。

そんな中で今の人気商品となっているのが、3年前ほど前に加わったお店のアイコン的お菓子「たらふくもなか」と「錦どら」。

生みの親である、3代目の根本幸治さんは、会社員として大手広告企業でキャリアを積んだあとに、次のステップとして実家の和菓子屋さんを継ごうと決め、現在は代表となってから3年になるそうです。


このまちで生まれそだった若き3代目、根本幸治さん

「父と母が高齢になり、店を畳もうかという話が出始めた頃、ちょうど私自身も次のステージへ進むタイミングかなと考えていたんです。それまで全然手伝ってもこなかったし、決して和菓子に明るいわけではなかったけれど、自分の生まれ育った因果に身を任せる形で頑張ってみるのも、アリなんじゃないかと思ったんですよね」

ガラリと変わる道を選んだ根本さん。それからは白樺で働きながら、夜間は製菓学校に通って和菓子作りの基礎を学び、徐々に知識と経験を積んでいきました。


毎朝、銅鍋であんこを炊くのも根本さんの仕事。北海道産の小豆を100%使用しています。

「和菓子というものは、”スイーツ”として単純に美味しいことだけが価値ではないと思うんです。日本人としてのアイデンティティとか、どこかに感じるノスタルジーや、季節の移ろいなど、文化背景を食べているようなところも大事にしたいと思っています」

一方で経営面に関しては、企業での経験を活かして、ゼロから考えなおした部分もあるそうです。

「白樺のような手作りの和菓子屋さんって、なんでも手作業で行うので、和菓子を量産できないのに単価が安いんですよね。価値のあるものを作っているつもりでも、洋菓子と比較してもずっと安い。

庶民的な価格で美味しい和菓子が買えるという点も和菓子のいいところではあると思うんですけど、利益構造としてあんまりうまくできてない業界だと思うんです。

でも和菓子は和食文化の一つの形であって、ずっと日本に残していきたいものだと考えている中で、ただ会社として生き延びていくのではなく、もっと良い商品をお客様に提供できるようになりたい。

うちで働く人たちにも幸せになって欲しいので待遇を良くしたい。そうすると、もっと会社を大きく立派にしていかないといけない。そのためにやるべきことを考えると、会社としては従来のままではいけなくなってくるんですよね。

とはいえ、あんまり強く『変えてやろう!』と、これまでやってきたことを否定する気持ちはないけれど、どうやったら良くなるかなというのは常に考えています」

そんな風に思いを巡らせるなかで、根本さんが考案したのが「たらふくもなか」と「錦どら」。


錦糸町テルミナ店でも買える「錦どら 白・黒」:税込200円、「たらふくもなか」:税込200円

きっかけは、根本さんを訪ねてお店にやって来る元同僚たちの声でした。

「会社員時代の仲間がありがたいことに訪ねてきてくれたとき、『お土産として使えるものはある?』とよく聞かれたんです。でも、当時ウチで作っていたのは、賞味期限が当日か翌日までの生菓子ばかり。

お菓子って自宅用と贈答用で大きく目的が二つに分かれるのですが、マーケットとしては後者のほうが圧倒的にボリュームが大きいんです。そこで、まずは保存料を入れなくても日持ちがして手土産にも使える和菓子を新商品として加えようと思いました」

当時はお菓子の開発をしたこともなく、技術にもそれほど自信がない中で根本さんが考えたのが、餡を炊いて、詰めれば完成する「もなか」だったそうです。


なんともいえないユルかわいさで手に取りたくなる縁起物「たらふくもなか」

お店の中に出荷を控えて山積みになっていたのは、人気商品の「たらふくもなか」。


ぎっしりと並べられ出荷を待つ「たらふくもなか」たち

「もなか自体を初めて食べました、なんて若い方の声が本当に多いんです」と根本さん。

「たらふくもなか」をきっかけに、和菓子の美味しさを知ったという若いお客さまも少なからずいるようです。

横たわる招き猫ちゃんがなんともキュート

「特別な日に手にとってもらえるような縁起のいいものをと、はじめは色々と和のモチーフで形を考えていたんです。鯛とか、亀とか。でも、一緒に作っていたデザイナーさんの会社でささっと描いて提案してくれたのが今の招き猫の形で。

私自身は正直なところ当時は猫派ではなかったし、寝転がってるし、手に小判も持っていないので『これで大丈夫かな』とか『ふざけすぎているって言われないかな』とは思ったのですが…すこし経ってみても、なんだかずっと忘れられなかったんです。絶妙なゆるさというか、あざとい可愛さというか(笑)」

自分がそうなのであれば、きっとお客さまにも同じように感じてもらえるのではないか、そんな根本さんの予想は的中しました。

専用の箱には同じ招き猫のイラストも

目につくと思わず微笑んでしまう招き猫型の「たらふくもなか」は、贈答用や自分へのご褒美にと大活躍。

そんな「たらふくもなか」とはまた違った背景で誕生したのが、次にご紹介する2種類の「錦どら」です。

思い入れが強くて一つに絞れず、白と黒で2種類に。試行錯誤の「錦どら」誕生秘話

「たらふくもなか」よりも先に根本さんが試行錯誤を重ねていたのが、こちらの「錦どら」。東京都内のどら焼きというどら焼きを食べては試作を重ねていたそうです。

「自分がどら焼き好きだからこそ、商品として出すために納得がいくものができるまで何度も作りました。何度も試食をしてもらったので、あまり人を褒めることのない父が『うまいよ!!』と、もう十分だからいい加減に店頭に出せという意味で褒めてくれるようになるほどで(笑)」


そんなこだわりの詰まった「錦どら 白」(手前)と「錦どら 黒」(奥)

白と黒とで2種類である理由には、思い入れがあるからこその物語があります。二つともに共通しているのは、毎朝その日の分の皮とあんこを手作りしている点。

「どら焼きの皮は、日持ちするように作るものと、その日の分を毎日作るものとがあるのですが、いわずもがなで、毎日作る皮のほうが美味しいんです。でも、どんな日でも毎朝生地をこねて焼くのはとても時間がかかるので、ただでさえ忙しいのに手間を増やすことは嫌がられたのですが、『毎朝自分が焼くのでやらせてください』と両親に頼んで作り始めました」

白と黒の違いは、そんなこだわりの皮の作り方にあります。

黒の方には沖縄県産の黒糖が練り込まれていて、根本さん自身が黒糖の配合から研究を重ねて生み出したもの。

「お客さまからどっちがどうなのかと聞かれることも多いのですが、その都度それぞれの特徴を説明するのが、白樺らしいコミュニケーションになっているのかなと思います」

一方で白の方は、昔ながらの王道のどら焼きを極めるために、根本さんが尊敬するどら焼きのお店で伝授してもらったレシピがもとになっています。

「あらゆるどら焼きを食べた中で、私が一番美味しいと思っているお店に、『どら焼きの作り方を知りたいので、こちらが定休日の月曜日に、無償で働かせてください』と手紙を書いたんです。そうしたら、そこの大将がとても懐の広い方で、『働かなくても教えてあげるからおいで』と。

実際に工程を教わると、原材料は本当にシンプルなのですが、製法は教科書には絶対に載っていないような、代々続く職人の知恵によるものでした。ありふれた素材でとても美味しいものを作るという、和菓子の真髄を教えていただいたんです」


「本当なら白か黒のどちらかに絞った方が効率的に作れるし負担も少ないけれど、そんなことがあって合理性から出来上がったものではないからこそ、どちらも捨てがたくて」

効率や合理性だけではまかりとおらない部分も見極めながら、根本さんはまちに根付く和菓子屋さんとして、白樺がどんな存在であるべきなのかを考えていらっしゃるようでした。


本店前に置かれた手書きの看板

「より美味しい和菓子を多くの人に食べてもらいたい、そのために会社としても成長して行きたいという思いは固まっています。だからといって、非効率なものを全てやめてしまえば良いかというと、そうじゃないと思うんですよね。

ずっと昔から作ってきた、賞味期限が当日の和菓子をやめて、売れる商品だけに絞って製造・販売したらより儲かるかもしれません。でも、経営効率のためにそういうものを捨てるっていうのは無いですね。

和菓子屋は、日本人が日本人らしく生きていく上での黒子的な存在でもあります。日持ちしなくてもお節句には桜餅や柏餅をお客様に食べてほしいし、お正月にはお餅を焼いて食べて欲しい。私自身もここで働き始める前まではそうだったのですが、歳時記もお節句もないような生活をしている世代の方々が、白樺のお菓子を食べることによって日本人であるアイデンティティを感じられるようになったら嬉しいし、それが私たちの成長にもつながるんじゃないかなと。

実際、『たらふくもなか』を買って初めてもなかを食べたという若い人に『袋を開けたらこんなに香ばしい香りがするんですね』と言っていただけることもあって。ウチは他の和菓子屋さんと比較すると、お年を召した方に加えて若い方にも多くご来店いただいています。その方々への影響を考えると、我々が思っている以上に責任は大きいし、良いものを提供し続けないといけないなと思っています」

スカイツリーができてから、ここ錦糸町は下町の雰囲気を残しつつも、どこかクリーンな印象になったと話す根本さん。

若い人やファミリー層が新たに多く引越して来る中で、このまちで生まれ育ち、若手でありながらも文化を伝える立場を担う覚悟を感じます。

それは、冒頭で「和菓子というものは半分、文化を食べている」とおっしゃったときのまなざしにもあらわれていました。


手土産に、自分へのご褒美に。ふらりと買いに行ける上質なおやつ

せっかくなので、白樺さんの向いにある公園で「錦どら」の白と黒をいただきました。

まず袋から取り出した瞬間の、どら焼きの皮のきめ細やかさと柔らかさにびっくり。強く握ったら簡単に指のあとがつくような繊細さは、皮の口溶けの良さを物語っています。


黒糖の香ばしさと、ふわっとした皮の柔らかさに、あんこのほどよい甘さがマッチする「錦どら 黒」と、しっとりとして卵や小麦粉といったシンプルな素材の味が、これまたあんこと相性のよい「錦どら 白」。

次回の手土産はこれに決まりだな、と思いつつ、かわいいものが好きなあの子には「たらふくもなか」もいいし…と、ほくほくした気分になりながらの帰路でした。

素敵な「HELLO!」が、今日もあなたに訪れますように。

(取材・執筆:山越 栞)

御菓子司 白樺 本店
住所東京都墨田区江東橋2-8-11  Google mapで見る
営業時間8:00-18:00
定休日月曜
TEL03-3631-6255
WEBhttps://shirakaba.site/
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※本記事に掲載している情報は、2022年3月時点の情報です。

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